初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼はすぐには答えなかった。

ただ、わずかに息を整えながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

その表情に、怒りはない。

むしろ――どこか必死で。

「……捕らえに来たのではない」

低く、静かな声。

思わず息を呑む。

「さあ、俺の元へ」

その言葉と同時に、彼の手が伸びた。

避ける間もなく、体を引き寄せられる。

「……っ」

気づいた時には、馬上へと引き上げられていた。

彼の腕の中。

背後から、ぎゅっと抱きしめられる。

逃げられない距離。

けれど、その力は――強引なのに、どこか優しくて。

「……放さない」

耳元で、低く囁かれる。

その一言に、胸が強く鳴る。

捕まったはずなのに。

なぜか、拒めなかった。
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