初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼の腕の中で、逃げようとした。

けれど、その力はわずかも緩まない。

まっすぐに、見つめられる。

逃げ場のない距離で。

「……町の視察の時」

低く、静かな声。

「君が熱心に見ていたのは、知っていた」

心臓が、大きく跳ねる。

どうして、それを――

「自分の領土も、あんな風にできたらと思ったのだろう」

言い当てられ、言葉を失う。

否定できない。

何も、言えない。

彼の腕に、さらに力がこもる。

逃がさないという意志。

けれど、それは支配ではなく――

「安心しろ」

その声は、驚くほど優しかった。

「俺が、あの国を活気溢れる町にする」

胸が、強く揺れる。

「だから」

さらに引き寄せられる。

「俺の側にいろ」

その言葉に、心が崩れそうになる。

拒まなければいけないのに。

なぜか、何も言い返せなかった。
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