初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
言葉が、出てこなかった。

何かを言わなければいけないのに。

胸の奥がいっぱいで、何も浮かばない。

気づけば、私は彼の胸にもたれかかっていた。

強く、温かい鼓動。

その音が、まっすぐに伝わってくる。

こんなにも近くで感じるのは、初めてで。

心が、一気に揺れる。

――もう、抗えない。

ゆっくりと顔を上げる。

視線が絡む。

逃げない。

もう、逃げたくない。

「……アルヴィオン」

小さく、名前を呼ぶ。

「あなたの愛で……今、私の心は満たされています」

その言葉は、自然にこぼれた。

嘘ではない。

初めて、自分の気持ちとして言えた。

私はそっと、彼の胸元を掴む。

そして――

自分から、唇を重ねた。

一瞬、彼の体が止まる。

けれどすぐに、強く抱きしめ返される。

その腕の中で、私はやっと気づいた。

――これは、奪われたのではない。

私が、自分で選んだのだと。
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