初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
唇が重なった瞬間、彼の体がわずかに止まった。

けれど、それはほんの一瞬だけだった。

すぐに、強く引き寄せられる。

離れたと思った唇が、また重なる。

今度は、彼の方から。

何度も、角度を変えて。

確かめるように、深く。

「……っ」

息が乱れる。

こんなにも求められるなんて、思っていなかった。

そのまま、強く抱き寄せられる。

逃げ場のない腕の中。

けれど――もう、逃げる理由はなかった。

やがて、ゆっくりと唇が離れる。

名残を惜しむように。

私は小さく息を整えながら、振り返った。

そこには、言葉を失ったセリオスの姿。

一瞬だけ、胸が揺れる。

けれど――迷わない。

「……帰りましょう」

はっきりと、言う。

そして、まっすぐに告げた。

「私は――皇太子妃です」

その言葉は、もう誰のためでもない。

自分で選んだ、私の答えだった。
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