初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
胸の奥に残っていた迷いは、もうなかった。

私はまっすぐに前を見据える。

「そして私は――」

静かな夜の中で、はっきりと告げる。

「この国の王妃になる人間です」

その言葉は、自分自身に刻むように。

逃げではなく、選択として。

セリオスが、息を呑む気配が伝わる。

驚きと、動揺。

何かを言おうとして――けれど、言葉が出ない。

その沈黙が、すべてを物語っていた。

私はもう、振り返らない。

次の瞬間、強く引き寄せられる。

「……っ」

彼の腕が、迷いなく私を抱きしめる。

逃げ場のない、けれど温かな拘束。

耳元で、低く囁かれる。

「……もう二度と、離さない」

その声に、胸が大きく震える。

拒む理由は、もうどこにもなかった。

私はそっと目を閉じる。

――この腕の中が、私の居場所なのだと。

静かに、受け入れながら。
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