初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
執務室の空気が、わずかにざわついた。

書類を運んできた家臣たちが、ちらりとこちらを見る。

「お二人とも、その辺で……」

控えめな苦笑い。

けれど彼は、まったく気にする様子もない。

「新婚なんだ。許せ」

あっさりと返すその声に、誰もそれ以上言えなくなる。

むしろ、どこか呆れたように視線を逸らし、

気づけば一人、また一人と部屋を出ていった。

静かになる執務室。

残されたのは、私と彼だけ。

「……本当に、いいの?」

小さく問いかけると、彼は当然のように答える。

「問題ない」

そのまま、ゆっくりと顔が近づく。

逃げる理由は、もうない。

自然に目を閉じると、唇が重なった。

短く、けれど確かな温もり。

離れたあとも、距離はそのまま。

「……仕事にならないわね」

そう呟くと、彼はわずかに笑った。

「それでもいいだろう」

その言葉に、思わず微笑んでしまう。

もう、この距離が――当たり前になっていた。
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