紅き月夜に 永遠の想い~運命に導かれた月夜の出逢い~
誰か状況を説明してください!①
「おーい! 起きろってば! おーーい、聞こえてるかあ!?」
耳元でわーわーと騒ぎ立てる声と同時に、ゆっさゆっさと身体を揺さぶられ、私の意識は否応なしに覚醒する。
もー! うるさいなあ! そんなに大声で騒ぎ立てなくても聞こえているわよ!
そう憤慨しつつ、私は相手の要望に応えるべく、起き上がろうとした。
けれど。
(あ……あれ?)
起き上がろうとする意識はあるのに、お腹の上に超巨大な漬物石でも置かれたがごとく、身動ぎはおろか指一本動かすことができない。
それどころかどんなに踏ん張っても、睫毛の一本すら微動だにしないのである。
な……なんだ、これは。
はっ! もしやしてこれぞ真夏の納涼企画番組などで、たびたび放送される心霊特集の再現ドラマで、よく目にする金縛り現象というヤツではないか!?
きゃあー! 私、そういうおどろおどろしいのは大嫌いなんだけど!
万が一、ここで、ぱちり、と目を開けようものならば、全身をずぶ濡れにさせた髪のながあぁあい女の人が、その額から大量の血を滴らせながら、恨めしい表情で私のことを睨みつけているのではなかろうか。
いつぞや怖いもの見たさで、ついうっかり見てしまった心霊番組の再現ドラマで、青白い顔をした女の幽霊が枕元に立っていたことを思い出し、私は、ぞぞぞぞぞぞぞっ、と背筋を震わせた。
こ……こういう時はお経を唱えるべきなのか!? え、でもお経なんて、まともに唱えたことなんてないぞ!
えーっと、えーっと、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、迷える悪しき魂よ! 浄化せよ!
うーん、これって何だかちょっと違う気もするんだけれど――……と思いつつ、心の中で悪霊退散、悪霊退散と必死に唱えていたらば、
「起・き・ろーーーーーーっ!!」
さっきよりもひと際バカでかい声が、鼓膜を、きぃいいいんと震わせた。
身体が動かない原因は分からないが、どうやら怪奇現象ではなさそうだ。
(耳元でそんな大声でがなり立てなくても分かってるわよ! でも身体が動かないんだからしょうがないでしょ!)
と、必死に喚き立てるものの、あくまで心の叫び。
重く圧しかかる瞼の向こうにいるであろう人物に、そんなものが聞こえるはずもなく、自分ではどうしようもない状況に戸惑っていると、
「まだ目を覚まさないとはどういうことだ!? こっちは時間がないんだ!」
ばたーーん! とドアと思しきものが開くけたたましい音とともに、超絶に不機嫌そうなオーラを纏った鋭い声が響く。
「そんな手緩い起こし方で目覚めるものか。そこをどけ、レナード」
さっきまで耳元でわーわーと騒いでいた声の主とは、明らかに違う声質を持つ誰かが苛立たしげにそんなことを言ったかと思った矢先。
「え……ってアレク! さすがにそれは横暴すぎ……っ、うわっ!」
耳元で騒ぎ立てていた主の慌てたような声が響くのとほぼ同時に、身動ぎすらままならなかった身体が、ふわり、と浮いた。
「――……へっ? って、うきゃああああああああああ!!!!」
身体が動いたー! ついでに声も出たー! と両の手を挙げて喜んだのも束の間、身体を投げ出され、ごろんっ、と横に一回転した私はその勢いのまま、ベッドであろうと思われるものから、派手に転げ落ちていた。
どうやら痺れを切らした誰か――おそらく、不機嫌オーラを全開させていた声の持ち主――が背中の下に敷いていたシーツを無理やりに引っ剥がしたらしい。
寝起きの悪さは世界的レベルだと自負しているが、それにしてもベッドから引き摺り落とすだなんて、さすがに横暴すぎやしないだろうか。
うむ、ここは断固抗議すべき!
しこたま打ち付けた背中と腰を擦りつつ、ベッドを挟んで向かい側に立っているであろう人物に向かって、びしりと指を突きつけ、
「……って、いきなり何すんのよっ!」
と猛然と捲し立てていた私はベッドを挟んで向かい側に立つ人物と何気に視線がかち合ってその直後。
(――――――――!!!!!!)
音にならない雄叫びを上げると、指を突きつけたままの格好で、完全にフリーズしてしまった。
いやだって目の前に立っていたのは、国民的RPGである『孤高の勇者は大地の果てで儚き夢をみる』に登場する眉目秀麗な男性キャラ達と見比べても、勝るとも劣らない超絶イケメンが二人もいたのである。
(って、な、なななななななに、なに、なにっ!? なんなの、このイケメン達はっ!?)
硬い床に打ちつけて痛む背中や腰や尻などのことはすっかり忘れ、ごくり、と生唾を呑み込んだ私はベッドの向こうに立つ二人のイケメンを、じいいいっ、と穴が開くくらい凝視した。
一人は夜空に瞬く星のきらめきを閉じ込めたみたいな銀色の瞳を持つイケメン。
肩のラインで切り揃えられたさらさらの髪は、まるで空を閉じ込めたかのような澄んだきれいな水色をしている。
乙女ゲームのキャラクターで例えるならば一人称は『僕』。
ふわふわとした柔らかい雰囲気のワンコ系男子といったところだろうか。
そうしてもう一人。
不機嫌オーラを全開させている彼は深い海の底を思わせる藍色の瞳を持っている。背中の中程まで伸びた長い髪は艶やかな黒だ。
乙女ゲームのキャラクターで例えるならば一人称は『俺』。
何だかものすごく不愛想で取っ付きにくく、どこか陰を含んだようなその雰囲気は、通常ルートでは絶対に出逢うことができない裏ルートに登場する隠れキャラそのものである。
何が何だか分からないながらも、目の前に立つイケメンを凝視しつつ、大雑把に分析していたら、
「……おい、大丈夫か?」
漆黒の流れるような長髪を持つイケメン――仮名:漆黒の王子――が、すうっ、と腕を伸ばしてきた。
これが本当に乙女ゲームならば、きゃああああ、と黄色い声を上げて悶絶する展開なのだろうが、残念ながらこれはゲームなどではなく、現実的に身に起きている事態。
「ひ……っ、や……やだっ! 近寄らないでっ!」
たとえ相手が絶世の美形であっても、まったく以って見知らぬ人間が、自分に対して何かしらのリアクションを取ろうとすれば、ときめきなんかよりも、恐怖心の方が先立つ。
あまりの怖さにパニックに陥った私はベッドの上に転がっていた枕を引っ掴むと、漆黒の王子に向かって、力任せに枕をぶん投げていた。
ひゅんと宙を舞った枕は、ぼふりっ、と派手な音を立てて、それはそれは見事なまでに、漆黒の王子の整った顔面を直撃する。
(う……うわああああああ、当たっちゃったああああ!)
漆黒の王子の顔から剥がれ落ちた枕が転がる様子を見ていた私ははっと我に返ると、自分がとっさに取った行動に、ざあああっ、と蒼褪めた。
「――……ってお前! いきなり何をするんだ!」
当然のことながら飛んでくる怒鳴り声。
元より眦が、きりっ、と少し吊り上がり気味の漆黒の王子。
そんな彼がその目元をさらに吊り上げ、こちらを、ぎろり、と睨みつけるその形相は美しさこそ損なわないものの、仁王様も泣いて謝りそうなくらいには迫力がある。
だって絶対に避けると思ってたんだもん! などと言い返せるはずもなく、尻尾を巻いて、きゃいんきゃいんと怯えていたらば、黙って事の成り行きを見ていた銀色の瞳のイケメン――仮名:銀色のワンコくん――が鬼のような形相をした漆黒の王子の肩をぽんぽん、と叩く。
「落ち着けってば、アレク。可哀そうに。こんなにも怯えているじゃないか」
眦を上げて気色ばむ漆黒の王子の肩を叩いて窘めつつ、銀色のワンコくんは、にこり、と人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「俺の名前はレナード・アシュリー。君は?」
「え……わたし、ですか? わたしは……」
一人称が『僕』ではなかったことにがっかりしつつ、自分の名前を口にしようとして、そこでようやく暢気に自己紹介なぞしてる場合でないことに気づき、私はふたたび、ぴきーん、とフリーズしてしまった。
私がいたのは見覚えのない部屋。
室内にあるのは木の枠組みのベッドとその脇に置かれた古びた木机。反対側の壁には背の低いチェストが二つ並べて置かれいて、その隣には本棚と思しき棚が一つ。
木製の机の上には灯りを燈すための燭台と水差し、それから水が張られた少し大きめの器が置いてあるのだけれど、部屋にあるものはどれもこれも年代を感じさせるような古臭いものばかり。
…………って、ここ、どこ?
耳元でわーわーと騒ぎ立てる声と同時に、ゆっさゆっさと身体を揺さぶられ、私の意識は否応なしに覚醒する。
もー! うるさいなあ! そんなに大声で騒ぎ立てなくても聞こえているわよ!
そう憤慨しつつ、私は相手の要望に応えるべく、起き上がろうとした。
けれど。
(あ……あれ?)
起き上がろうとする意識はあるのに、お腹の上に超巨大な漬物石でも置かれたがごとく、身動ぎはおろか指一本動かすことができない。
それどころかどんなに踏ん張っても、睫毛の一本すら微動だにしないのである。
な……なんだ、これは。
はっ! もしやしてこれぞ真夏の納涼企画番組などで、たびたび放送される心霊特集の再現ドラマで、よく目にする金縛り現象というヤツではないか!?
きゃあー! 私、そういうおどろおどろしいのは大嫌いなんだけど!
万が一、ここで、ぱちり、と目を開けようものならば、全身をずぶ濡れにさせた髪のながあぁあい女の人が、その額から大量の血を滴らせながら、恨めしい表情で私のことを睨みつけているのではなかろうか。
いつぞや怖いもの見たさで、ついうっかり見てしまった心霊番組の再現ドラマで、青白い顔をした女の幽霊が枕元に立っていたことを思い出し、私は、ぞぞぞぞぞぞぞっ、と背筋を震わせた。
こ……こういう時はお経を唱えるべきなのか!? え、でもお経なんて、まともに唱えたことなんてないぞ!
えーっと、えーっと、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、迷える悪しき魂よ! 浄化せよ!
うーん、これって何だかちょっと違う気もするんだけれど――……と思いつつ、心の中で悪霊退散、悪霊退散と必死に唱えていたらば、
「起・き・ろーーーーーーっ!!」
さっきよりもひと際バカでかい声が、鼓膜を、きぃいいいんと震わせた。
身体が動かない原因は分からないが、どうやら怪奇現象ではなさそうだ。
(耳元でそんな大声でがなり立てなくても分かってるわよ! でも身体が動かないんだからしょうがないでしょ!)
と、必死に喚き立てるものの、あくまで心の叫び。
重く圧しかかる瞼の向こうにいるであろう人物に、そんなものが聞こえるはずもなく、自分ではどうしようもない状況に戸惑っていると、
「まだ目を覚まさないとはどういうことだ!? こっちは時間がないんだ!」
ばたーーん! とドアと思しきものが開くけたたましい音とともに、超絶に不機嫌そうなオーラを纏った鋭い声が響く。
「そんな手緩い起こし方で目覚めるものか。そこをどけ、レナード」
さっきまで耳元でわーわーと騒いでいた声の主とは、明らかに違う声質を持つ誰かが苛立たしげにそんなことを言ったかと思った矢先。
「え……ってアレク! さすがにそれは横暴すぎ……っ、うわっ!」
耳元で騒ぎ立てていた主の慌てたような声が響くのとほぼ同時に、身動ぎすらままならなかった身体が、ふわり、と浮いた。
「――……へっ? って、うきゃああああああああああ!!!!」
身体が動いたー! ついでに声も出たー! と両の手を挙げて喜んだのも束の間、身体を投げ出され、ごろんっ、と横に一回転した私はその勢いのまま、ベッドであろうと思われるものから、派手に転げ落ちていた。
どうやら痺れを切らした誰か――おそらく、不機嫌オーラを全開させていた声の持ち主――が背中の下に敷いていたシーツを無理やりに引っ剥がしたらしい。
寝起きの悪さは世界的レベルだと自負しているが、それにしてもベッドから引き摺り落とすだなんて、さすがに横暴すぎやしないだろうか。
うむ、ここは断固抗議すべき!
しこたま打ち付けた背中と腰を擦りつつ、ベッドを挟んで向かい側に立っているであろう人物に向かって、びしりと指を突きつけ、
「……って、いきなり何すんのよっ!」
と猛然と捲し立てていた私はベッドを挟んで向かい側に立つ人物と何気に視線がかち合ってその直後。
(――――――――!!!!!!)
音にならない雄叫びを上げると、指を突きつけたままの格好で、完全にフリーズしてしまった。
いやだって目の前に立っていたのは、国民的RPGである『孤高の勇者は大地の果てで儚き夢をみる』に登場する眉目秀麗な男性キャラ達と見比べても、勝るとも劣らない超絶イケメンが二人もいたのである。
(って、な、なななななななに、なに、なにっ!? なんなの、このイケメン達はっ!?)
硬い床に打ちつけて痛む背中や腰や尻などのことはすっかり忘れ、ごくり、と生唾を呑み込んだ私はベッドの向こうに立つ二人のイケメンを、じいいいっ、と穴が開くくらい凝視した。
一人は夜空に瞬く星のきらめきを閉じ込めたみたいな銀色の瞳を持つイケメン。
肩のラインで切り揃えられたさらさらの髪は、まるで空を閉じ込めたかのような澄んだきれいな水色をしている。
乙女ゲームのキャラクターで例えるならば一人称は『僕』。
ふわふわとした柔らかい雰囲気のワンコ系男子といったところだろうか。
そうしてもう一人。
不機嫌オーラを全開させている彼は深い海の底を思わせる藍色の瞳を持っている。背中の中程まで伸びた長い髪は艶やかな黒だ。
乙女ゲームのキャラクターで例えるならば一人称は『俺』。
何だかものすごく不愛想で取っ付きにくく、どこか陰を含んだようなその雰囲気は、通常ルートでは絶対に出逢うことができない裏ルートに登場する隠れキャラそのものである。
何が何だか分からないながらも、目の前に立つイケメンを凝視しつつ、大雑把に分析していたら、
「……おい、大丈夫か?」
漆黒の流れるような長髪を持つイケメン――仮名:漆黒の王子――が、すうっ、と腕を伸ばしてきた。
これが本当に乙女ゲームならば、きゃああああ、と黄色い声を上げて悶絶する展開なのだろうが、残念ながらこれはゲームなどではなく、現実的に身に起きている事態。
「ひ……っ、や……やだっ! 近寄らないでっ!」
たとえ相手が絶世の美形であっても、まったく以って見知らぬ人間が、自分に対して何かしらのリアクションを取ろうとすれば、ときめきなんかよりも、恐怖心の方が先立つ。
あまりの怖さにパニックに陥った私はベッドの上に転がっていた枕を引っ掴むと、漆黒の王子に向かって、力任せに枕をぶん投げていた。
ひゅんと宙を舞った枕は、ぼふりっ、と派手な音を立てて、それはそれは見事なまでに、漆黒の王子の整った顔面を直撃する。
(う……うわああああああ、当たっちゃったああああ!)
漆黒の王子の顔から剥がれ落ちた枕が転がる様子を見ていた私ははっと我に返ると、自分がとっさに取った行動に、ざあああっ、と蒼褪めた。
「――……ってお前! いきなり何をするんだ!」
当然のことながら飛んでくる怒鳴り声。
元より眦が、きりっ、と少し吊り上がり気味の漆黒の王子。
そんな彼がその目元をさらに吊り上げ、こちらを、ぎろり、と睨みつけるその形相は美しさこそ損なわないものの、仁王様も泣いて謝りそうなくらいには迫力がある。
だって絶対に避けると思ってたんだもん! などと言い返せるはずもなく、尻尾を巻いて、きゃいんきゃいんと怯えていたらば、黙って事の成り行きを見ていた銀色の瞳のイケメン――仮名:銀色のワンコくん――が鬼のような形相をした漆黒の王子の肩をぽんぽん、と叩く。
「落ち着けってば、アレク。可哀そうに。こんなにも怯えているじゃないか」
眦を上げて気色ばむ漆黒の王子の肩を叩いて窘めつつ、銀色のワンコくんは、にこり、と人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「俺の名前はレナード・アシュリー。君は?」
「え……わたし、ですか? わたしは……」
一人称が『僕』ではなかったことにがっかりしつつ、自分の名前を口にしようとして、そこでようやく暢気に自己紹介なぞしてる場合でないことに気づき、私はふたたび、ぴきーん、とフリーズしてしまった。
私がいたのは見覚えのない部屋。
室内にあるのは木の枠組みのベッドとその脇に置かれた古びた木机。反対側の壁には背の低いチェストが二つ並べて置かれいて、その隣には本棚と思しき棚が一つ。
木製の机の上には灯りを燈すための燭台と水差し、それから水が張られた少し大きめの器が置いてあるのだけれど、部屋にあるものはどれもこれも年代を感じさせるような古臭いものばかり。
…………って、ここ、どこ?