紅き月夜に 永遠の想い~運命に導かれた月夜の出逢い~
ワンコ系神官さまと一緒に遠出をすることになりました。
「今日って休みだったよね? 今から所用でハイゼンティアの知り合いのところに行くんだけど、良かったら美緒も一緒に行かない?」
それはジオルドとの一件から数日が経ったある日のこと。
一週間ぶりの休暇をもらい、いつもより少し遅めの朝食を済ませ、今から羽を伸ばすぞうー! と意気込んだものの、よくよく考えてみたら、どこかへ遊びに行くにしても、一緒に行ってくれそうな友達なんて一人もいやしないし、買い物をするにしても、そもそもお金なんてほとんど持っていないし、ぶらぶらとその辺を散策するにしても、剣も魔法も使えないから危ないし――と何をするにしても制約がついてしまうことに気がついてしまった。
せっかく休みをもらったのに外で遊べないなんて悲しすぎるー! と嘆いたところで、友達もいない・お金もない・戦えないの三大ない要素を持っているのだから、こればっかりは諦めるしかないだろう。
そうなってくると、もう部屋に引き篭もるしかないのだが、暇つぶしアイテムが、そこいらじゅうに溢れている日本と違って、セラフィリアには就寝するまでの長い一日を潰せるほどのアイテムは、ほとんど存在していない。
本を読むのは比較的好きだから、読書で時間を潰したいところなのだが、いかんせん、私はこちらの世界の文字を書くことはおろか読むことすらできない。
読書がダメとなると、それ以外に自分にできそうなことはと言えば、女性らしくたおやかに手芸を嗜むか、もしくはダイエットも兼ねて筋トレに励むか、はてまた新しく仕入れた知識や情報を『異世界で暮らすための手引き書』に書き留めるか、あるいはふて寝するか、と選択肢はそんなところだろう。
いっそうのこと、できることの全てを極めてやろうかとも思ったが、疲れそうなのでやめた。
そもそも手芸なんぞ学校の授業で編み物や刺繍を少し習ったくらいで、趣味の域に到達するほど、のめり込めそうにはなさそうだし、どっちかというと、手芸は苦手科目なのだ。
子供たちと遊ぶという手もあるが、それだと仕事をしているのも同然らしく、ホワイト経営者を心がけているレナードから、ちゃんと休暇を取ってね、と注意をされてしまうのだ。
(……となったら、文字の読み書きの練習をするのが一番よね)
セラフィリアに飛ばされてから、なんだかんだ、もう一か月半近くが経とうとしている。
最初の頃は『自動翻訳機能』がついてるし、会話さえできれば差し支えないから、文字の読み書きは後回しでもいいやー、なんて、楽観的なことを考えていたが、確かに日常を送るのに『読み書き』は必須項目ではないものの、こうして暇を弄ぶようになってくると、やはり不便さは否めない。
書くのは難しいとしても、せめて読むことができるようになれば、読書だって楽しめるのだ。
そうなれば休みの日は王立図書館で本を読んで過ごせるようになるし、いろいろな本を読めば、新しい知識や情報を得ることだってできる。
これほどまでにお得感溢れる『一石二鳥』はそうそうないだろう。
まあそのような経緯もあり、こちらの世界に来たときに一緒についてきた、お気に入りの通学用鞄の中から筆記用具とノートを引っ張り出し――処遇に関しては未だ何も知らされていないが、持ち物だけは一週間ほどで返してくれた――これならきっと読めるよ! と子供たちが選んでくれた幼児向けの絵本を古びた机の上に広げ、これまた子どもたちが作ってくれた文字一覧表を片手に、おーし! 頑張って勉強するぞう! と絵本に印刷された大きな文字を指で追い始めたのだが。
「うぐぐぐぐぐぐ……む、難しい! 難しすぎるうぅうううう!」
セラフィリアでは三十個の字母――日本語で例えるなら『あ』だとか『ひ』だとか、そういった単語や言語の基本となる文字があって、その三十の文字の組み合わせが単語となり、文章となるのだけれど、この文字が古代文明時代に使用されていた象形文字にすごく似ていて、もはや文字というよりは絵に近く、これが一筋縄では覚えられそうにもないのだ。
もともと絵心があまりない私にとって、“書く”という作業は至難の業――……ということで取り合えず、“読む”事から始めたのだけれど、似たような造りの文字は区別することすら難しく、紙面のほとんどがイラストで埋められていて、文字は申し訳ない程度にしか書かれていないというのに、たった一ページを読むのですら、ものすごい時間と労力がかかってしまう。
そんなこんなで絵本を読み始めてから、わずか五分足らずで、私は言語の違いという名の分厚い壁にぶち当たり、心をへし折られてしまった。
広げた絵本の上に突っ伏して、文字を覚えるのがこんなにも難しいだなんて! と弱音を吐いていたところに、部屋にやってきたレナードに冒頭のようなお誘いの声をかけられたのだ。
「ハイゼン……ティア?」
「ああ、そうだよ。水の都と称される美しい街で温泉もあるんだ」
「温泉!? 温泉なんてあるの!? 行ってみたいー!」
『温泉』という素敵キーワードを持ち出され、温泉大好きな日本人としての血が騒ぎ、連れてって欲しいー! と食い気味に詰め寄れば、レナードはちょっと驚いたように腰を引く。
「ああ、もちろん連れて行くよ。でも温泉でそんなにも喜ぶなんて思わなかったなあ。俺としては占いの方が喜ぶかと思ったんだけど……」
「占い?」
「ものすごくよく当たるって評判の占星術師がいるんだ。気休めにしかならないとは思うけど、占ってもらうことで何かの“きっかけ”になるかも、って思ってさ」
私としては占いよりも温泉の方が断然興味あるのだけれど、確かに占ってもらうことで、自分がこの世界に喚ばれた理由や、元の世界に戻るためのヒントを得られる可能性は無きにしも非ずだ。
自分の運命や運勢は自分で切り開くって思考だから、占いの結果とかはあまり信じない方だが、こちらの世界に来てしまった真相だとか――本気でただの迷子なだけかも知れないけれど――果たして何をすれば、あるいはどうすれば、日本に戻れるのか、そればかりは自分の力だけではどうこう出来そうにもない。
レナードの言うとおり、ただの気休めだけに終わりそうな気もするが、それでも何もしないよりはいいだろう。
あちらの世界では非日常とされていることが、ここセラフィリアでは当たり前のように日常に溢れている。
精霊や妖精や魔法といった存在が公認されているこの世界で行われる『占い』はとんでもなくすごいものなのかもしれない。
そんな風に考えたら、なんだかすごく楽しそうで、俄然、興味も湧いてきた。
「占いも楽しそうだね!」
「じゃあ部屋の外で待ってるから、出かける準備をしておいで」
「うん! わかった!」
レナードからの誘いを二つ返事で快く引き受けると、意気揚々、私は出かける準備に取りかかったのであった。
それはジオルドとの一件から数日が経ったある日のこと。
一週間ぶりの休暇をもらい、いつもより少し遅めの朝食を済ませ、今から羽を伸ばすぞうー! と意気込んだものの、よくよく考えてみたら、どこかへ遊びに行くにしても、一緒に行ってくれそうな友達なんて一人もいやしないし、買い物をするにしても、そもそもお金なんてほとんど持っていないし、ぶらぶらとその辺を散策するにしても、剣も魔法も使えないから危ないし――と何をするにしても制約がついてしまうことに気がついてしまった。
せっかく休みをもらったのに外で遊べないなんて悲しすぎるー! と嘆いたところで、友達もいない・お金もない・戦えないの三大ない要素を持っているのだから、こればっかりは諦めるしかないだろう。
そうなってくると、もう部屋に引き篭もるしかないのだが、暇つぶしアイテムが、そこいらじゅうに溢れている日本と違って、セラフィリアには就寝するまでの長い一日を潰せるほどのアイテムは、ほとんど存在していない。
本を読むのは比較的好きだから、読書で時間を潰したいところなのだが、いかんせん、私はこちらの世界の文字を書くことはおろか読むことすらできない。
読書がダメとなると、それ以外に自分にできそうなことはと言えば、女性らしくたおやかに手芸を嗜むか、もしくはダイエットも兼ねて筋トレに励むか、はてまた新しく仕入れた知識や情報を『異世界で暮らすための手引き書』に書き留めるか、あるいはふて寝するか、と選択肢はそんなところだろう。
いっそうのこと、できることの全てを極めてやろうかとも思ったが、疲れそうなのでやめた。
そもそも手芸なんぞ学校の授業で編み物や刺繍を少し習ったくらいで、趣味の域に到達するほど、のめり込めそうにはなさそうだし、どっちかというと、手芸は苦手科目なのだ。
子供たちと遊ぶという手もあるが、それだと仕事をしているのも同然らしく、ホワイト経営者を心がけているレナードから、ちゃんと休暇を取ってね、と注意をされてしまうのだ。
(……となったら、文字の読み書きの練習をするのが一番よね)
セラフィリアに飛ばされてから、なんだかんだ、もう一か月半近くが経とうとしている。
最初の頃は『自動翻訳機能』がついてるし、会話さえできれば差し支えないから、文字の読み書きは後回しでもいいやー、なんて、楽観的なことを考えていたが、確かに日常を送るのに『読み書き』は必須項目ではないものの、こうして暇を弄ぶようになってくると、やはり不便さは否めない。
書くのは難しいとしても、せめて読むことができるようになれば、読書だって楽しめるのだ。
そうなれば休みの日は王立図書館で本を読んで過ごせるようになるし、いろいろな本を読めば、新しい知識や情報を得ることだってできる。
これほどまでにお得感溢れる『一石二鳥』はそうそうないだろう。
まあそのような経緯もあり、こちらの世界に来たときに一緒についてきた、お気に入りの通学用鞄の中から筆記用具とノートを引っ張り出し――処遇に関しては未だ何も知らされていないが、持ち物だけは一週間ほどで返してくれた――これならきっと読めるよ! と子供たちが選んでくれた幼児向けの絵本を古びた机の上に広げ、これまた子どもたちが作ってくれた文字一覧表を片手に、おーし! 頑張って勉強するぞう! と絵本に印刷された大きな文字を指で追い始めたのだが。
「うぐぐぐぐぐぐ……む、難しい! 難しすぎるうぅうううう!」
セラフィリアでは三十個の字母――日本語で例えるなら『あ』だとか『ひ』だとか、そういった単語や言語の基本となる文字があって、その三十の文字の組み合わせが単語となり、文章となるのだけれど、この文字が古代文明時代に使用されていた象形文字にすごく似ていて、もはや文字というよりは絵に近く、これが一筋縄では覚えられそうにもないのだ。
もともと絵心があまりない私にとって、“書く”という作業は至難の業――……ということで取り合えず、“読む”事から始めたのだけれど、似たような造りの文字は区別することすら難しく、紙面のほとんどがイラストで埋められていて、文字は申し訳ない程度にしか書かれていないというのに、たった一ページを読むのですら、ものすごい時間と労力がかかってしまう。
そんなこんなで絵本を読み始めてから、わずか五分足らずで、私は言語の違いという名の分厚い壁にぶち当たり、心をへし折られてしまった。
広げた絵本の上に突っ伏して、文字を覚えるのがこんなにも難しいだなんて! と弱音を吐いていたところに、部屋にやってきたレナードに冒頭のようなお誘いの声をかけられたのだ。
「ハイゼン……ティア?」
「ああ、そうだよ。水の都と称される美しい街で温泉もあるんだ」
「温泉!? 温泉なんてあるの!? 行ってみたいー!」
『温泉』という素敵キーワードを持ち出され、温泉大好きな日本人としての血が騒ぎ、連れてって欲しいー! と食い気味に詰め寄れば、レナードはちょっと驚いたように腰を引く。
「ああ、もちろん連れて行くよ。でも温泉でそんなにも喜ぶなんて思わなかったなあ。俺としては占いの方が喜ぶかと思ったんだけど……」
「占い?」
「ものすごくよく当たるって評判の占星術師がいるんだ。気休めにしかならないとは思うけど、占ってもらうことで何かの“きっかけ”になるかも、って思ってさ」
私としては占いよりも温泉の方が断然興味あるのだけれど、確かに占ってもらうことで、自分がこの世界に喚ばれた理由や、元の世界に戻るためのヒントを得られる可能性は無きにしも非ずだ。
自分の運命や運勢は自分で切り開くって思考だから、占いの結果とかはあまり信じない方だが、こちらの世界に来てしまった真相だとか――本気でただの迷子なだけかも知れないけれど――果たして何をすれば、あるいはどうすれば、日本に戻れるのか、そればかりは自分の力だけではどうこう出来そうにもない。
レナードの言うとおり、ただの気休めだけに終わりそうな気もするが、それでも何もしないよりはいいだろう。
あちらの世界では非日常とされていることが、ここセラフィリアでは当たり前のように日常に溢れている。
精霊や妖精や魔法といった存在が公認されているこの世界で行われる『占い』はとんでもなくすごいものなのかもしれない。
そんな風に考えたら、なんだかすごく楽しそうで、俄然、興味も湧いてきた。
「占いも楽しそうだね!」
「じゃあ部屋の外で待ってるから、出かける準備をしておいで」
「うん! わかった!」
レナードからの誘いを二つ返事で快く引き受けると、意気揚々、私は出かける準備に取りかかったのであった。