紅き月夜に 永遠の想い~運命に導かれた月夜の出逢い~

恋愛フラグなど立ってませんが、占ってやるといわれたので、恋占いをしてもらうことにしました。

「そうだねえ。じゃあ、手を見せてくれるかい?」
「手を――……ですか?」
「ああ、そうだよ」

 神秘的なデザインのタロットにクリスタル製の水晶球。アメジストの振り子(ペンデュラム)に妖しげな幾何学模様が描かれた魔術書。
 占い、というと、何かしらの小道具を使って行うもの――……と勝手にイメージしていた私は手を見せろ、と言われ、おおー! こちらの世界にも手相占いがあるのかー! とちょっぴり胸を熱くさせると、すぐに手相を見れるよう、掌を上にして、左手を差し出した。

 助言という形で占ってやるよ、とマルティーヌさんから告げられたのは、ほんの数分前の話。
『銀の乙女』として人々の未来を視始めるよりも以前、()()()()()()として活躍していたマルティーヌさんは、当時からよく当たると評判だったらしく、その的中率はかなり高かったそうだ。
 マルティーヌさんが占星術を生業としていたのは、わずか六年ほどの間で、現役を退いてからは、もうかれこれ五十年近くが経つそうで、マルティーヌさん曰く、占星術師としての勘は、かなり鈍っているとのことらしい。

 当たるも八卦当たらぬも八卦。占いなんてただの気休め。信憑性に欠ける不透明で不確かなもの。

 占いの結果に対して、そんな風に割り切っているから、あまり気にしない方だけど、凄腕の占い師として超有名だったという、マルティーヌさんに占ってもらうとなると、ちょっと緊張してしまう。
 悪い結果が出たらどうしよう、とドキドキしていたら、私が差し出した左手を両の手で包みこむように掴んだかと思うと、マルティーヌさんは瞼をそっと閉じて目を瞑る。
 あれ? 手相占いをするのではなかったのか? と首を傾げつつ、その様子を窺っていたら、マルティーヌさんは目を閉じたまま、ゆるり、と口を開くと、聞き慣れない言葉を紡ぎ始めた。
 自動翻訳機では変換されない、こちらの世界の言語だと思われる、不思議な響きを持つそれは、言の葉というよりは音色に近い。
 まるで唄でも(うた)うかのように、澄んだ声で音色を奏でていたマルティーヌさんは、やがて音を奏でるのを止めると、閉じていた瞼をゆっくりと見開いた。
 さっきの唄のようなものが占いなのだろうか、と思いつつ、マルティーヌさんの口から結果が齎されるのを待っていたらば、マルティーヌさんは、うーん、と唸って、小難しそうに眉間に皺を寄せる。
 その様子を見る限り、占いの結果はあまり芳しくなさそうだ。

「え、えーっと、あの……マルティーヌお婆さま?」

 眉間に皺を寄せたままの、その表情があまりにもよろしくないものだから、恐る恐るこちらの方から声をかければ、マルティーヌさんは、ああ、うん、そうだねえ、と、何とも曖昧な言葉を返す。
 占いの結果に一喜一憂したりするものか、と心構えはしているものの、ここまであからさまな反応をされてしまうと、さすがに不安になってしまう。
 いったいどんな結果が出たの!? と内心ビビりつつ、固唾を吞んでいたらば。

「うーん、それがねえ。全体的にぼんやりとしていて、はっきりと掴めないんだよ」
「えーっと、それは占いの結果が得られなかった、ということでしょうか?」
「こんなことは滅多とないのだけれど、やっぱりアレかねえ。ミオはこの世界の人間ではないだろう?」
「はい、そうですね…………というか、マルティーヌお婆さまは、どうして、私がこの世界の人間ではないと分かったんですか?」
「そりゃあ、一目見れば、分かるさねえ。セラフィリアでは黒い瞳を持つ人間は稀有だからねえ」
「でも東大陸のごく一部に限られた地域で暮らすグリザムという少数民族は、生まれついて、黒い髪に黒い瞳を持つのだと教わりました」
「おや、よく知っているねえ。確かにグリザム族は髪も瞳も黒いけれど、異界人が持つそれとは、ちょっと感じが違うんだよ。まあ、グリザム族にしたって、限られた一部の地域にしか生息していないし、あまり広くは知られていないから、結局のところ、大多数の人間からすれば、黒い瞳を持つ人間は、異界人って思うのが、一般的だろうねえ」

 いざという時に切り札として使えと、アレクから伝授したグリザム族のことを引き合いに出してみれば、そんな答えが返ってきた。

 とどのつまり、セラフィリアでは黒い瞳の人間=異世界人という図式が成り立っているようだ。
 時空魔法や召喚魔法の存在が認められているから、セラフィリアにおいて異界人というのは、それほど珍しいものではないらしい。
 けれど『黒い瞳を持つ異界人』となると、その数はかなり少ないのだそうだ。
 異世界全体を通してみても、黒い瞳というのは希少らしく、だとしたら、日本に逆トリップなんかした日には、黒目を持つ人間だらけだから、きっとみんなものすごく驚くんだろうなあ。
 なんてことを考えて、その光景を頭の中で想像して、一人可笑しく思っていたら、膝の上で眠るシャルロットを起こさないよう、そろり、と腕を伸ばすと、マルティーヌさんはすぐそばに置いてあったチェストの引き出しを開いた。
 そうしてからカードのようなものを取り出すと、マルティーヌさんは束になっていたそれをテーブルの上に置き、手慣れた様子でカードをシャッフルすると、カードを裏向けたまま、一枚、また一枚と丁寧に並べてゆく。
 金色と銀色で縁取られた花と植物をモチーフにしたカードは、どうやらタロットのようだ。
 ざっかりと数えて30枚ほどのカードをテーブルの上に並べ終えると、マルティーヌさんは、さてと、と呟いて、菫色の瞳を私へと向けた。

「これは恋(まじな)いに特化したオラクル(占い)カードだよ。ミオを直接占うのは難しそうだし、かと言って、何の結果も得られないまま、手ぶらで帰すわけにもいかないからねえ。せめて、お前さんの恋愛運くらいは占ってやるよ」
「うええぇええっ!? ……って、れ、恋愛っ!?」

 ちょっとした助言をしてもらうつもりだったのが、なぜだか恋愛運を占うことになってしまい、恋愛なんてものとは、ほぼ無縁な私は驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げてしまった。
 私が発した声に反応して、すやすやと心地良さそうに、眠っていたシャルロットが、小さく身動ぐ。

「んうー……大きな声を出してどうしたの? おねえちゃん」
「あ、起こしちゃった。ごめんね、シャルロット」

 半開きの瞼をかしかしと擦りながら、まだ眠そうにしているシャルロットに謝れば、ううん、だいじょうぶー! と言って、シャルロットは向日葵のような笑みを満面に咲かせる。
 ああ、やっぱり可愛いなあ!
 天使も顔負けしそうなくらい、とびきりの笑顔に癒されていたら。

「あまりお昼寝をしすぎると、夜に眠れなくなっちゃうよ? そうしたらシャルロットが大嫌いなこわーいお化けが、たくさん出てきてしまうかもしれないねえ」
「えー! それはやだー!」
「じゃあ夕飯の支度ができたら呼んであげるから、それまでみんなと一緒に外で遊んでおいで」
「うん! わかった!」

 よほどお化けが出てくるのが嫌らしい。
 綿菓子みたいにふわふわとした蜂蜜色の髪を撫でながら、マルティーヌさんがやんわりと言い聞かせれば、マルティーヌさんの膝の上から、ぴょこんと飛び降りると、ドレスの裾を翻してドアへと駆け寄り、シャルロットは一目散に部屋から出ていってしまう。
 魔物や精霊の存在が当たり前のように認められている世界であっても、『おばけ』というものは別枠で設けられているんだなあ、と変なところで感心していたら、向かい側のソファに腰を据えていたマルティーヌさんが、やや前傾姿勢で、ずずい、と詰め寄ってきた。

「さてとそれでお前さんの相手は、どんな感じの男性なんだい?」
「あ、相手っ!?」

 そもそも恋愛対象の異性など、この世のどこにも存在しないのだから、相手を教えろと言われても、答えようがない。
 しかし私からの返事を待つマルティーヌさんの目は爛々と輝き、溢れんばかりの好奇に満ちていて、とてもじゃないけれど「そんなものはいません」と答えられる雰囲気ではない。

「い、いや、それ以前、()()()()()()()()を占うのは難しい……んですよね?」
「ああ、そのことなら問題ないよ。この占いの結果を決めるのは、カードの引き手であるミオ自身だからね。それでミオの婚約者はどんな男性なんだい?」

 どうにかこの窮地を乗り切ろうと、話の矛先を無理やりに変更したらば、しれっ、と躱したばかりでなく、マルティーヌさんは立て続けに、とんでもない発言をぶち込んできた。
 相手っていうから、恋愛対象の男性のことかと思っていたら、マルティーヌさんがいう相手というのは『婚約者』のことだったらしい。

「こっ、婚約者っ!? いやいやいやいやいや婚約者なんて、そんなのいませんっ!」
「え!? お前さん、十八になっても、まだ婚約者が決まってないのかい!?」

 あまりに飛躍しすぎたその発言に気が動転してしまって、ついうっかり本音をぶちかませば、マルティーヌさんは信じられないことを聞いてしまった、とでも言いたげに、菫色の瞳を大きく見開いて驚愕する。
 どうやらセラフィリアでは十八ともなれば、婚約者の一人くらいはいるのが普通らしい。

「いえ、私が住んでいた国では結婚する平均年齢は、男女ともに上昇傾向にあって、最近のデータでは三十歳前後が、最も多いとされています。ですので十八歳で婚約者がいる人は、ごく稀かと思います」
「ええっ!? 三十歳で結婚って……子供はどうするんだい!? 三十で初産を迎えるだなんて、そんなことをしたら子宝に恵まれないじゃないかい!」
「私がいた国では医療技術の進歩が目覚ましく、高齢でも安心して出産できる環境が整っていますので、出産に関してはそれほど問題はないんです。日本では様々な事情により少子化――……出生率の低下が進んでいるので、二人目以降を授かる人の数は減少傾向にありますが」

 これがいわゆる世代ギャップならぬ異文化ギャップっていうヤツなのねー、とその違いの差をしみじみと実感しつつ、日本での結婚および出産事情を、くそ真面目に説明すれば、マルティーヌさんはやっぱり目を丸くさせたまま、そうかい、そうかいと頷く。

「三十近くにならないと結婚しないなんて、ミオがいた国は変わっているねえ。でも好きな相手くらいはいるんだろう?」
「――……っ、んぐぅっ!?」

 会話が途切れた合間に咽喉を潤そうと思って、ティーカップの紅茶を、ぐびり、と煽っていた私は、マルティーヌさんが投げかけたその質問に、思いっきり咽喉を詰まらせてしまった。
 げっほっ、ごっほっ、と派手に()せ返っていたら、まあ大変! と驚いたマルティーヌさんが、慌てて背中を擦ってくれる。
 咳き込んでいる間、ずっと背中を擦り続けてくれていたマルティーヌさんは、私がすっかり落ち着いたのを確認すると、さっきまで座っていたソファに戻り、すとん、と腰を落ち着けた。

「その様子だと好きな人もいなさそうだねえ」
「ううううう……はい、すみません。いません」

 彼氏いない歴どころか恋愛経験ですら、ほぼ皆無の自分が恥ずかしくて、目を合わせないよう、視線を泳がせながら、泣く泣くその事実を認めれば、マルティーヌさんは苦笑いを浮かべる。

「こればっかりはタイミングってものもあるだろうし、仕方ないさね。まあ、まあ、そう気落ちしないで、カードを一枚引いてごらん。運命の扉が開くかもしれないよ」

『運命の扉』なんて尤もらしい言葉を口にして、マルティーヌさんはカードを引けと促す。
 別に気落ちしているわけではないんだけどねー、と思いつつ、私はガラステーブルの上に整然と並ぶ、華美なカードに視線を巡らせた。
 こういうのって選ぶのに迷うと、かえって変なのを引いちゃうんだよねえ。ここは直感に任せて引くかー。
 だって今年の初詣で引いたお神籤なんて、さんざん迷った挙句、これだと思って引いたのに『大凶』だったもんねー。
 っていうかさ、あの時に引いた大凶って、もしかして異世界にぶっ飛ばされることを予言していたんじゃないの!?

 とそんなことをぐだぐたと考えつつ、無心、無心、と呟きながら、心の中を空っぽにすると、私はテーブルの上に並ぶカードの中から、えいや! と一枚を引き抜いた。
 様々な種類の花と植物の文様が描かれたカードを、ぴろり、とひっくり返して、その裏側――正確に言うとカードの表――を見てみれば、そちらの面には見たこともない文字、というよりは文様みたいなものが描かれている。
 引っ提げていたポシェットの中から、子供たちが作ってくれた文字一覧表を取り出して、照らし合わせてみたものの、やはりこちらの世界の文字でもなさそうだ。

「これは超古代時代に使われていた文字だよ。素人には読めやしないさ」

 カードの表に描かれた謎の文様の羅列に、なんだこれ? と首を捻っていたら、マルティーヌさんはそんなことを言って、私の手からカードを抜き取ると、その表面に描かれた文様をじっと見つめた。
 ときおり、へえー、とか、ほおー、とか、感嘆の声を漏らしながら、カードに描かれた文様をしげしげと眺めやっていたマルティーヌさんは、うんうん、と満足気に頷く。

「心配しなくてもいいよ。このカードの意味はね、『一生に一度きりの恋』だよ」

 私が引き当てたカードをちらつかせながら、マルティーヌさんは得意満面の笑みを浮べて、嬉々とした声でそう告げたのだけれど。

「うえええぇぇえええっ!? 私、まだ十八なのに、人生で一回しか恋できないの――っ!?」

 それってお神籤で大凶を引くより最悪じゃないか! と自分のくじ運の悪さに、がっくしと項垂れたのであった。


 ***


「シャルロットはどうしてミオのことを占って欲しいと言ったんだい?」

 ベッドに潜り込んだシャルロットの蜂蜜色の柔らかい髪を梳きながら、マルティーヌはずっと心に引っかかっていた疑問をそれとなしに口にした。

 それは今日のお昼のことだ。
 愛弟子であるレナードが、ミオという少女を連れて来たかと思えば、『銀の乙女』の能力(ちから)を貸して欲しいと言い出したのは。
 自分としても、愛弟子の願いを叶えてやりたいと思ったが、『銀の乙女』の能力(ちから)は、もう何十年も昔に、二度と使わないことを誓って、封印したものだ。
 いくら愛弟子の頼みと言えど、封印を解くことなど、決して許されない。
 だから力にはなれないと断ったのだが、そこに思いがけず、割り込んできたのが、シャルロットだった。

 彼女たちが生きるこの世界は、そこまで安全ではない。
 騎士団や自警団といった組織によって、ある程度、護られてはいるものの、身代金や人身売買、強姦などが目的で、幼児が拐われるという事件は後を絶たない。
 あまり人見知りをせず、誰にでもすぐに懐く性格だからこそ、そういう危険に巻き込まれないよう、見知らぬ人間に声をかけられても、絶対に近づかないようにと、普段から言い聞かせているのだが、会話さえもまともに交わしたことのないミオに対して、あのような行動を取ってしまった。
 顔馴染みのレイチェルやレナードが、ミオの傍にいたこともあったから、あまり警戒心を抱かなかったのかもしれないが、理由次第によっては、お灸を据えることも考えなければならない。
 そう判断して、先ほどの質問を投げかけたのだが。

「あのね、あのお姉ちゃんから、お月様と同じ匂いがしたの!」
「お月様と同じ匂い?」
「うん、そうだよ! あ、でもね。今、お空に浮かんでいる真っ赤なお月様じゃなくて、シャルロットが大好きだった琥珀色の優しいお月様と一緒なの!」
「ああ、そうだったのかい」

 きゃっきゃっと声を弾ませながら、返してきたシャルロットの答えが、あまりにも意外過ぎたことに、拍子抜けしつつ、マルティーヌは薄く開いた窓の向こう側の空に浮かぶ月を見上げた。
 今でこそ生き血を吸い上げたかのような禍々しい(あか)に染まっているが、シャルロットが五歳を迎えたばかりの頃は、まだ月は柔らかい琥珀色の淡い光に包まれており、銀色に瞬く満点の星空を優しく照らしていた。
 シャルロットは琥珀色をした月を見上げるのが大好きで、悪天候などで月が見えないとき以外は、眠くなるまで、毎晩のように、夜空を見上げていたものだ。
 だが穏やかだった月は今や鳴りを潜め、人々に不安を与える存在にしか過ぎない。
 あれほど月を見上げるのが、大好きだったシャルロットも、月に異変が起きてからというもの、夜空を見上げることは止め、最近では話題にあげることさえもなかったのだが。

(――……月の匂い、ねえ、)

 目に入れても痛くないほど、溺愛している孫に(ほだ)され、実に十数年ぶりに他人を占うこととなったのだが、どういうわけだか、ミオに関しては、はっきりとしたイメージを掴むことができなかったのである。
 占星術師としての己の勘が鈍ったか、あるいは、対象者であるミオが、この世界の人間ではないから、うまく占いの結果をイメージすることができなかったのだろう、と分析していたのだが、どうやら、そのどちらも見当違いのようだ。

「それにしても不思議だねえ」
「どうしたの? おばあちゃま?」
「ああ、いや、何でもないよ。さあ、そろそろ眠ろうかねえ」
「シャルロット、まだそんなに眠くないよ?」
「でも、あまり遅くまで起きていたら、シャルロットが大嫌いなおばけが、いっぱい出てくるよ?」
「えー! それはやだ! シャルロット、もう寝るー!」
「そうかい、そうかい。いい子だねえ。じゃあ、シャルロットが眠るまで、傍にいてあげるから、早くお眠り」
「うん、わかったー! おばあちゃま、おやすみなさい」
「おやすみ、シャルロット。いい夢を見るんだよ」

 毛織りの掛布をかけてやりながら、シャルロットの小さな額にキスを落とすと、マルティーヌは椅子の背凭れに身体を深く預け、小さく息を吐く。
 そうしてから、今日出会ったばかりのミオのことを、ふっ、と頭の中に思い浮かべた。
 シャルロットがいうような月の匂いというものは感じ取れなかったものの、マルティーヌもまたミオに強く月を感じたのだ。
 シャルロットと同じく、異変が起きる前の、琥珀色に煌めく優しい月のイメージを。
 どうしてミオからそのようなイメージが伝わって来たのか、その理由は分からない。
 けれど『銀の乙女』の血を受け継ぐ自分と孫の二人ともが、彼女から『異変が起きる前の月』のイメージを感じたなんてのは、偶然として片づけるには、あまりにも不可解なことだ。


「……月に喚ばれたかねえ」


 ぽつり、と呟いたマルティーヌの声は、けれど誰の耳に届くでもなく、夜の闇に静かに溶けて消えた。 

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