紅き月夜に 永遠の想い~運命に導かれた月夜の出逢い~
え、えーっと、いまいち状況が掴めないのですが、誰か説明してくれませんか?
「…………ええっと、ここはどこだ?」
そよそよと頬を撫でる優しい風と、柔らかく薫る甘い花の香りに誘われるように、眠りから目覚めた私は、セラフィリアにぶっ飛ばされてから、何度か口にしたことのあるその台詞を、ぼそり、と呟きつつ、ゆっくりと上半身を起こすと、辺りをきょろきょろと見渡した。
私が身体を横たえていたのは、金色に輝く稲穂みたいな植物が、吹く風にゆらゆらと揺れるたび、りーん、りーん、と涼やかな音色を奏でる草原のような場所。
わかりやすく例えるなら、どデカい昆虫が生息する森に、過って迷い込んでしまった旅人を、果敢に救い出す少女が、映画のクライマックスシーンで降り立つ草原を、そのままそっくり写し撮ったかのような草原だ。
本当にここはあの世界に存在する草原ではなかろうか、とそんな考えが頭を過り、私は映画に登場する少女を真似て――もちろん蒼き衣などは纏っていない――立ち上がると、両腕を水平に広げ、らんららららん、と鼻歌混じり、ちょっと歩いてみた。
かなり長い時間、眠っていたようで、ふらり、と身体がふらつく。
おっとっと危ないなあ、と思いつつ、ぐらぐらと左右に揺れる身体をどうにか水平に保ち、もう少しだけ映画の真似っこをして楽しもう、とふたたび歩き出そうとして、ぐにゃり、と柔らかい何かを靴の底で踏んだことに気づく。
うええええっ!? ってうそ!?
まさかとは思うけど、こんなところに犬の●●(自主規制)なんて落っこちてないよね、と思いつつ、おそるおそる足元に視線を落とした私はその直後。
「え!? なにこれっ!?」
靴の底で踏みつけたらしい、それを指の先に摘まむと、ひょいと持ち上げてみた。
前述した少女が活躍する映画では、目がたくさんある見た目がちょっぴりグロテスクな蟲の幼虫みたいなのが、登場していたように思うが、私が遭遇したのは、手のひらジャストサイズの馬と思しき動物だ。
無駄な肉など一切ない引き締まった体躯。風に靡く鬣。宝石のように美しい緑色の瞳。
風に靡く鬣は降り注ぐ陽光を反射して白銀に輝き、全身を覆う柔らかそうな長い毛は、艶やかで光沢がある乳白色をしている。
一際、目立つのは、その額に長く伸びる一本の、金色に輝く大きな角だ。
手のひらに載るくらいのミニチュアサイズではあるものの、躍動感のあるその隆々とした体躯と、手入れの行き届いた美しい綺麗な毛並みは、なかなかに上質だ。
「え……えーっと、これはペガサス? いや違うな。確かペガサスは背中に翼が生えてたはずだもんね。額に角が生えてる馬って何だっけ。あ、そうだ! 思い出した! 確か、ユニコーン、だっけ? でもペガサスにしても、ユニコーンにしても、あっちの世界で描かれてるのは、こんなミニチュアサイズじゃなかった気がするんだけどなあ」
「失礼な! 私は馬などではありません! あんな下賤な生き物と一緒にしないでください!」
「え、あ、あの、ご、ごめんなさ――……って、うええええええっ!? 馬がしゃべった――っっ!」
ミニチュアサイズの白馬と思しき動物を指先で摘まみ、目の高さまで持ち上げて、その生態をじっくりと観察していたら、突然に馬がしゃべり始めたものだから、驚きのあまり、私はついうっかり、指で挟んでいたそれを、ぽいっ、と投げ捨ててしまった。
「うわわわわわ! ご、ごめんなさい! 驚いちゃって、ついうっかり投げちゃった! お馬さん怪我とかしてないよね?」
稲穂みたいな柔らかそうな植物に、覆い尽くされた黄金の絨毯の上に、べしゃり、と、お尻から落っこちた白馬を指の先で摘まんで救出し、手のひらに載せれば、ユニコーンもどきの白馬は、ぶるるるるるっ、と鼻を鳴らす。
どうやら怒っているようだ。
もう一回くらい謝っておいた方がいいかな、と思った矢先、ユニコーンもどきの白馬は、私の手のひらの中で、後ろ脚を支えにして、すっくと立ち上がると、すらり、と伸びる長い前脚を、びしり、と私に突きつけた。
うわっ! 馬が二本脚で直立してるうー! と驚いていたらば。
「ですから私は馬などではありませんってば! 私の名はアルトゥール。月王様の従者を務めるしがない馬です」
いやいやいやいやいや。今、自分からしがない『馬』だって言ったよねえ!?
そこのところをツッコむべきか迷ったけれど、なんだか面倒くさそうだったので。
「……ええっと、ツキオウサマノ、ジュウシャ???」
「そうです! 月王様はこの世界を創造された偉大なる神様なのです!」
なんだそれ、と首を傾げつつ、気になったその単語を反芻すれば、今度は長い前脚を胴体――……腰? と思しき部位に押し当てて、ユニコーンもどきの白馬――もといアルトゥールと名乗った彼は、えっへん! と鼻を鳴らして得意げに話す。
う……うーん、神様、ねえ。
どうして馬がしゃべれるんだ、とか、ツキオウサマノジュウシャってなにそれ、とか、色々と質問したいことはあったのだけれど、出始めからカオス臭がぷんぷんと漂う彼の胡散臭い話に、耳を傾け続けるのは、精神衛生上よろしくなさげだったので、とりあえず、今一番解決したい疑問をぶつけてみることにした。
「え、えーっと、ところでアル……アルトゥール? このキラキラな金色の草原はどこなのかご存じかしら?」
馬に『さん』付けをするのも、何だかおかしいよなあ、と思い、敬称を略して彼の名前を呼んでみたものの、そういやツキオウサマノジュウシャとか言ってたよなあ。ツキオウサマとやらが、この世界を創造した神様だとしたら、その神様に仕える従者って、ものすごく偉い立場なんじゃないだろうか。
とそんな疑問が頭を過り、やっぱり敬称をつけて『アルトゥールさま』と呼んだ方が良かったかもー! と自分の犯してしまった失態に焦っていたらば。
「うーん、そうですねえ。誰にでも分かるような言葉で言うならば、ここは『夢の中』という表現が一番近いでしょうか」
「ゆ……夢の中?」
「ええ、そうです。ざっかり大まかに言ってしまえば、ここは貴女の夢の中なのです」
「は……はあ、なるほど、そうなんですか」
今いるキラキラとした金色の草原が『夢の中』であることを教えてもらったものの、それに対して、どうリアクションを取れば良いのかわからず、素っ気ない返事をすることしかできない。
ただここが『夢の中』だと分かってしまうと、何だかちょっぴり噛み合わない、ちぐはぐな会話だったり、馬であるアルトゥールがしゃべったりするのは、これは夢だからという一言で、全ての問題が解決してしまうのだから、アルトゥールが言う通り、ここは夢の世界なんだろう、と思うことにした。
「ところで美緒さん、お出迎えが遅くなりまして、申し訳ありませんでした」
「お出迎え……って何の話??? いやそれ以前、何で私の名前を知っているの?」
と、そのような質問をしたすぐその後で、ああ、そうだった。これは夢なんだった。自分が見ている夢なのだから、そこに登場したキャラが、自分の名前を知っていても不思議じゃあないよねえ。
いやあ、それにしても、内容はものすごく、ちぐはぐしているのに、夢にしては、何だか妙にリアリティあるなあ。
と複雑怪奇な心境に陥りつつも、でも夢ってこんなものだよねえ、と少々強引に、これは夢なんだ、と思い込もうとしていたら。
「月王様の命により貴女をセラフィリアに召喚したのは私なのです。もう少し早く出迎えに差し上げたかったのですが、私も悪しき者の手によって封印されてしまい、抜け出すのに、大変苦労致しました」
「ふーん、そうなんだあ」
春先に萌え出る若葉のような鮮やかな萌葱色の瞳を揺らめかせながら、えらく真剣な表情で、つらつらと語るアルトゥールを見返しつつ、これは夢なんだしい、と適当に相槌を打って数秒後。
「――……って、うえええええっ!!!?」
夢にしてはあまりにもリアルすぎるその内容に、私は素っ頓狂な声を上げていた。
「ちょ……ちょっと待ってっ! これって夢なんだよねえええ!?」
「ええ、これは夢です……が、正確に言うと『夢』とは少し違うものです。えーっと、どう説明すれば、よろしいでしょうか。そうですねえ。私は夢の世界の住人などではなく、現実に実在する者なのです。貴女と今後のお話を進めるため、実際、貴女にお会いしたかったのですが、色々と諸事情がありまして、それは今は適わぬことですので、私が持つ特殊能力を利用して、今回は貴女の精神世界――……つまりは夢の中にお邪魔させて頂いた、という次第です」
何とも軽いノリで語らったアルトゥールの話の内容が、あまりにもぶっ飛びすぎていて、脳ミソの中で稼働している思考回路が追いつかず、私はぐちゃぐちゃに絡まった糸のように混乱する頭を抱えこんでしまった。
ああ、やっぱりカオスだ。
こんな夢など、さっさと醒めてしまえばいい。
そんな強い想いに駆られ、私は指先に渾身の力を籠めると、手の甲の薄っぺらい皮膚を思いっきり抓ってみた。
「――……っ!?!? いったああああああああああいっっ!!!!」
夢なんだし痛みなんて感じるわけがない、と手加減など一切せず、皮膚が捲れんばかりの勢いで抓ってみたらば、めちゃくちゃ痛いではないか!
あまりの痛さに、もんどりを打って、のたうち回る。
ひいひい言いながら転げ回り、痛みが引くのを待つこと、おおよそ五分。
「って夢なのに、なんで痛いのよ!」
「ですから、夢とは少し違うと、さっき言ったばかりじゃないですかあー」
「でもこれは『夢』なんでしょう!? 今ここで私が見聞しているこれは、私の精神世界が生み出した『妄想』ってことだよねええ!? それはすなわち目が覚めたら、全部、現実ではないってことだよねえええ!?」
あまりにも内容がカオスすぎて、自分でも何を言っているのか、よく理解できない。
けれどもこんがらかる思考を、どうにかフル稼働させて質問をすれば、アルトゥールは、うぬぬぬぬぬ、と狭い眉間に皺を寄せて唸り声を上げる。
「ですからこれは『夢』ではありませんってば。なので貴女が目覚めても、『なかったこと』にはならないのです」
「いやいやいやいやいや! ちょ、ちょっと待って! 意味がわかんない! 夢じゃなかったら、今こうしてアルトゥールと話しているこれは何なのよ!?」
「だーかーらーっ! これは『夢』ですが『現実』でもあるんです!」
いつまで経っても収拾がつかない話に、痺れを切らしたアルトゥールが鼻息荒く、そんなことを言う。
けれど、『夢』だけど『現実』でもあるとかっていう、矛盾かつ支離滅裂なそれに、私の頭はますます混乱してしまった。
ああ、ダメだ。本当に何を言ってるのか、さっぱり意味が分からない。というか何だか頭が痛くなってきたんだけれど。
くらり、と眩暈までしてきて、額を押さえていたら、とにかく! と言って、アルトゥールは、ヒヒンっ、と嘶く。
そうしてから、相変わらず、私の手のひらの上で、二本脚で直立した姿のまま、すらり、と伸びる長い前脚を、びしり、と突きつけると、アルトゥールは声高らかに、私に向かって、こう宣告したのだ。
「とにもかくにも言えることは一つです! 貴女は悪しき者の手に拠って、封印されてしまった月王様を解放するために、この世界に喚ばれた『月に呼ばれし解放者』なのです!」
そよそよと頬を撫でる優しい風と、柔らかく薫る甘い花の香りに誘われるように、眠りから目覚めた私は、セラフィリアにぶっ飛ばされてから、何度か口にしたことのあるその台詞を、ぼそり、と呟きつつ、ゆっくりと上半身を起こすと、辺りをきょろきょろと見渡した。
私が身体を横たえていたのは、金色に輝く稲穂みたいな植物が、吹く風にゆらゆらと揺れるたび、りーん、りーん、と涼やかな音色を奏でる草原のような場所。
わかりやすく例えるなら、どデカい昆虫が生息する森に、過って迷い込んでしまった旅人を、果敢に救い出す少女が、映画のクライマックスシーンで降り立つ草原を、そのままそっくり写し撮ったかのような草原だ。
本当にここはあの世界に存在する草原ではなかろうか、とそんな考えが頭を過り、私は映画に登場する少女を真似て――もちろん蒼き衣などは纏っていない――立ち上がると、両腕を水平に広げ、らんららららん、と鼻歌混じり、ちょっと歩いてみた。
かなり長い時間、眠っていたようで、ふらり、と身体がふらつく。
おっとっと危ないなあ、と思いつつ、ぐらぐらと左右に揺れる身体をどうにか水平に保ち、もう少しだけ映画の真似っこをして楽しもう、とふたたび歩き出そうとして、ぐにゃり、と柔らかい何かを靴の底で踏んだことに気づく。
うええええっ!? ってうそ!?
まさかとは思うけど、こんなところに犬の●●(自主規制)なんて落っこちてないよね、と思いつつ、おそるおそる足元に視線を落とした私はその直後。
「え!? なにこれっ!?」
靴の底で踏みつけたらしい、それを指の先に摘まむと、ひょいと持ち上げてみた。
前述した少女が活躍する映画では、目がたくさんある見た目がちょっぴりグロテスクな蟲の幼虫みたいなのが、登場していたように思うが、私が遭遇したのは、手のひらジャストサイズの馬と思しき動物だ。
無駄な肉など一切ない引き締まった体躯。風に靡く鬣。宝石のように美しい緑色の瞳。
風に靡く鬣は降り注ぐ陽光を反射して白銀に輝き、全身を覆う柔らかそうな長い毛は、艶やかで光沢がある乳白色をしている。
一際、目立つのは、その額に長く伸びる一本の、金色に輝く大きな角だ。
手のひらに載るくらいのミニチュアサイズではあるものの、躍動感のあるその隆々とした体躯と、手入れの行き届いた美しい綺麗な毛並みは、なかなかに上質だ。
「え……えーっと、これはペガサス? いや違うな。確かペガサスは背中に翼が生えてたはずだもんね。額に角が生えてる馬って何だっけ。あ、そうだ! 思い出した! 確か、ユニコーン、だっけ? でもペガサスにしても、ユニコーンにしても、あっちの世界で描かれてるのは、こんなミニチュアサイズじゃなかった気がするんだけどなあ」
「失礼な! 私は馬などではありません! あんな下賤な生き物と一緒にしないでください!」
「え、あ、あの、ご、ごめんなさ――……って、うええええええっ!? 馬がしゃべった――っっ!」
ミニチュアサイズの白馬と思しき動物を指先で摘まみ、目の高さまで持ち上げて、その生態をじっくりと観察していたら、突然に馬がしゃべり始めたものだから、驚きのあまり、私はついうっかり、指で挟んでいたそれを、ぽいっ、と投げ捨ててしまった。
「うわわわわわ! ご、ごめんなさい! 驚いちゃって、ついうっかり投げちゃった! お馬さん怪我とかしてないよね?」
稲穂みたいな柔らかそうな植物に、覆い尽くされた黄金の絨毯の上に、べしゃり、と、お尻から落っこちた白馬を指の先で摘まんで救出し、手のひらに載せれば、ユニコーンもどきの白馬は、ぶるるるるるっ、と鼻を鳴らす。
どうやら怒っているようだ。
もう一回くらい謝っておいた方がいいかな、と思った矢先、ユニコーンもどきの白馬は、私の手のひらの中で、後ろ脚を支えにして、すっくと立ち上がると、すらり、と伸びる長い前脚を、びしり、と私に突きつけた。
うわっ! 馬が二本脚で直立してるうー! と驚いていたらば。
「ですから私は馬などではありませんってば! 私の名はアルトゥール。月王様の従者を務めるしがない馬です」
いやいやいやいやいや。今、自分からしがない『馬』だって言ったよねえ!?
そこのところをツッコむべきか迷ったけれど、なんだか面倒くさそうだったので。
「……ええっと、ツキオウサマノ、ジュウシャ???」
「そうです! 月王様はこの世界を創造された偉大なる神様なのです!」
なんだそれ、と首を傾げつつ、気になったその単語を反芻すれば、今度は長い前脚を胴体――……腰? と思しき部位に押し当てて、ユニコーンもどきの白馬――もといアルトゥールと名乗った彼は、えっへん! と鼻を鳴らして得意げに話す。
う……うーん、神様、ねえ。
どうして馬がしゃべれるんだ、とか、ツキオウサマノジュウシャってなにそれ、とか、色々と質問したいことはあったのだけれど、出始めからカオス臭がぷんぷんと漂う彼の胡散臭い話に、耳を傾け続けるのは、精神衛生上よろしくなさげだったので、とりあえず、今一番解決したい疑問をぶつけてみることにした。
「え、えーっと、ところでアル……アルトゥール? このキラキラな金色の草原はどこなのかご存じかしら?」
馬に『さん』付けをするのも、何だかおかしいよなあ、と思い、敬称を略して彼の名前を呼んでみたものの、そういやツキオウサマノジュウシャとか言ってたよなあ。ツキオウサマとやらが、この世界を創造した神様だとしたら、その神様に仕える従者って、ものすごく偉い立場なんじゃないだろうか。
とそんな疑問が頭を過り、やっぱり敬称をつけて『アルトゥールさま』と呼んだ方が良かったかもー! と自分の犯してしまった失態に焦っていたらば。
「うーん、そうですねえ。誰にでも分かるような言葉で言うならば、ここは『夢の中』という表現が一番近いでしょうか」
「ゆ……夢の中?」
「ええ、そうです。ざっかり大まかに言ってしまえば、ここは貴女の夢の中なのです」
「は……はあ、なるほど、そうなんですか」
今いるキラキラとした金色の草原が『夢の中』であることを教えてもらったものの、それに対して、どうリアクションを取れば良いのかわからず、素っ気ない返事をすることしかできない。
ただここが『夢の中』だと分かってしまうと、何だかちょっぴり噛み合わない、ちぐはぐな会話だったり、馬であるアルトゥールがしゃべったりするのは、これは夢だからという一言で、全ての問題が解決してしまうのだから、アルトゥールが言う通り、ここは夢の世界なんだろう、と思うことにした。
「ところで美緒さん、お出迎えが遅くなりまして、申し訳ありませんでした」
「お出迎え……って何の話??? いやそれ以前、何で私の名前を知っているの?」
と、そのような質問をしたすぐその後で、ああ、そうだった。これは夢なんだった。自分が見ている夢なのだから、そこに登場したキャラが、自分の名前を知っていても不思議じゃあないよねえ。
いやあ、それにしても、内容はものすごく、ちぐはぐしているのに、夢にしては、何だか妙にリアリティあるなあ。
と複雑怪奇な心境に陥りつつも、でも夢ってこんなものだよねえ、と少々強引に、これは夢なんだ、と思い込もうとしていたら。
「月王様の命により貴女をセラフィリアに召喚したのは私なのです。もう少し早く出迎えに差し上げたかったのですが、私も悪しき者の手によって封印されてしまい、抜け出すのに、大変苦労致しました」
「ふーん、そうなんだあ」
春先に萌え出る若葉のような鮮やかな萌葱色の瞳を揺らめかせながら、えらく真剣な表情で、つらつらと語るアルトゥールを見返しつつ、これは夢なんだしい、と適当に相槌を打って数秒後。
「――……って、うえええええっ!!!?」
夢にしてはあまりにもリアルすぎるその内容に、私は素っ頓狂な声を上げていた。
「ちょ……ちょっと待ってっ! これって夢なんだよねえええ!?」
「ええ、これは夢です……が、正確に言うと『夢』とは少し違うものです。えーっと、どう説明すれば、よろしいでしょうか。そうですねえ。私は夢の世界の住人などではなく、現実に実在する者なのです。貴女と今後のお話を進めるため、実際、貴女にお会いしたかったのですが、色々と諸事情がありまして、それは今は適わぬことですので、私が持つ特殊能力を利用して、今回は貴女の精神世界――……つまりは夢の中にお邪魔させて頂いた、という次第です」
何とも軽いノリで語らったアルトゥールの話の内容が、あまりにもぶっ飛びすぎていて、脳ミソの中で稼働している思考回路が追いつかず、私はぐちゃぐちゃに絡まった糸のように混乱する頭を抱えこんでしまった。
ああ、やっぱりカオスだ。
こんな夢など、さっさと醒めてしまえばいい。
そんな強い想いに駆られ、私は指先に渾身の力を籠めると、手の甲の薄っぺらい皮膚を思いっきり抓ってみた。
「――……っ!?!? いったああああああああああいっっ!!!!」
夢なんだし痛みなんて感じるわけがない、と手加減など一切せず、皮膚が捲れんばかりの勢いで抓ってみたらば、めちゃくちゃ痛いではないか!
あまりの痛さに、もんどりを打って、のたうち回る。
ひいひい言いながら転げ回り、痛みが引くのを待つこと、おおよそ五分。
「って夢なのに、なんで痛いのよ!」
「ですから、夢とは少し違うと、さっき言ったばかりじゃないですかあー」
「でもこれは『夢』なんでしょう!? 今ここで私が見聞しているこれは、私の精神世界が生み出した『妄想』ってことだよねええ!? それはすなわち目が覚めたら、全部、現実ではないってことだよねえええ!?」
あまりにも内容がカオスすぎて、自分でも何を言っているのか、よく理解できない。
けれどもこんがらかる思考を、どうにかフル稼働させて質問をすれば、アルトゥールは、うぬぬぬぬぬ、と狭い眉間に皺を寄せて唸り声を上げる。
「ですからこれは『夢』ではありませんってば。なので貴女が目覚めても、『なかったこと』にはならないのです」
「いやいやいやいやいや! ちょ、ちょっと待って! 意味がわかんない! 夢じゃなかったら、今こうしてアルトゥールと話しているこれは何なのよ!?」
「だーかーらーっ! これは『夢』ですが『現実』でもあるんです!」
いつまで経っても収拾がつかない話に、痺れを切らしたアルトゥールが鼻息荒く、そんなことを言う。
けれど、『夢』だけど『現実』でもあるとかっていう、矛盾かつ支離滅裂なそれに、私の頭はますます混乱してしまった。
ああ、ダメだ。本当に何を言ってるのか、さっぱり意味が分からない。というか何だか頭が痛くなってきたんだけれど。
くらり、と眩暈までしてきて、額を押さえていたら、とにかく! と言って、アルトゥールは、ヒヒンっ、と嘶く。
そうしてから、相変わらず、私の手のひらの上で、二本脚で直立した姿のまま、すらり、と伸びる長い前脚を、びしり、と突きつけると、アルトゥールは声高らかに、私に向かって、こう宣告したのだ。
「とにもかくにも言えることは一つです! 貴女は悪しき者の手に拠って、封印されてしまった月王様を解放するために、この世界に喚ばれた『月に呼ばれし解放者』なのです!」