洗濯物をぶつけたら皇太子の溺愛が始まりました
小さく、呟く。

同僚たちの声にかき消されるほどの、小さな声。

あり得ない。

あの方が、こんな場所にいる自分たちに向かって手を振るなんて。

ましてや、自分に向けてなど。

「勘違いよ」

そう言い聞かせる。

それが一番、しっくりくる答えだから。

「気のせい、だよね」

誰に聞かせるでもなく、もう一度呟く。

それでも――

どうしてか、胸の奥がざわつく。

視線を上げることができない。

もしまた、目が合ってしまったら。

そんなこと、あるはずないのに。

それでも、怖い。

「……仕事、しなきゃ」

無理やり手を動かす。

シーツを掴み、広げる。

風に揺れる白い布が、視界を遮る。

その向こうに、まだ彼がいる気がして。

けれど、もう見ないと決めた。

見てはいけない。

それでも。

どうしても――あの一瞬の仕草が、頭から離れなかった。
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