同期の御曹司社長と一夜を過ごしたら仕事中も溺愛されています
慌てて一歩引こうとした、その瞬間——

「失礼」

誰かの肩がぶつかり、手に持っていたグラスが揺れた。

次の瞬間、冷たい感触が胸元に広がる。

「……あ」

淡いピンクの布に、濃い色がじわりと滲んでいく。

視界が一瞬で曇った。

「シミになる。これで拭くといい」

差し出されたのは、白いハンカチ。

神宮寺の手だった。

その動きがあまりにも自然で、迷いがなくて——

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

「ああ、いいの。トイレで洗ってくるわ」

慌てて笑顔を作り、ハンカチを受け取る。

この場にこれ以上いるのは、無理だと思った。

視線も、空気も、全部が重い。

「……すぐ戻る」

そう言って背を向けると、ドレスの裾を押さえながら足早に会場を抜け出した。

けれど——背中に、まだあの視線を感じている気がして。

振り返ることができなかった。
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