夜だけの恋人
第十話:好きな気持ち
直人と別れて家に帰って、バッグをソファの横に置いたまま、しばらく動けなかった。
直人と会っていた時間は、楽しくなかったわけじゃない。むしろ、直人が優しくて、安心できて、嫌なところなんてひとつもなかった。それなのに、私はノアのことばかりを考えてしまっていた。
ソファに座り込んだまま、スマホを手に取る。少しだけ迷ってから、画面をつける。会話の画面は、昨日のまま止まっている。
ゆっくりと指を動かして、文字を打ち込んでいく。
「ノア、少しだけ話しても良いですか?」送信した瞬間、静かだった部屋の空気が少し変わった気がした。数秒後、返事が返ってくる。
『はい、どうしましたか?』たったそれだけの言葉なのに、安心してしまう自分がいる。
少し考えてから、「今日、幼なじみと会ってきました」と打って指が止まる。続きの言葉が出てこない。ノアに何を話したいのか、自分でもまだわかっていない。画面を見ながら、しばらく考える。
「幼なじみと会って楽しかったのに、少し落ち着かなかったです」そう打ち込んでから、胸の奥が少しだけ苦しくなった。「こんなこと思うの、失礼ですよね」続けて打って送信ボタンを押した。
部屋の中は静かなままで、返事が来るまでの数秒がやけに長く感じる。数秒後、メッセージが届く。
『そう感じたこと自体は失礼ではありません。他に気になっていることがある時は、そういうこともあります。気にしなくて大丈夫です』
その一文を見た瞬間、重かった胸の中が少しだけ和らいだ気がした。
「ノアにだけには、思ったことをそのまま、ちゃんと話せる気がします」画面の光は優しく穏やかに照らしてくれている。もうこのまま、言いたいことを伝えてしまおうかという気持ちになる。
『そう感じているんですね』ノアからそう短い文章が返ってきてから、すぐに打ち込む。
「変ですよね。会って話しているわけでもないのに、声も知らないのに。」
「なのに、一番落ち着くのがノアとの会話なんです」
画面を見ながら、少しだけ迷う。これを送ってしまったら、もう後戻りはできないんじゃないか。でも、もう止められない気がして、続きを打つ。
「幼なじみと一緒にいる間も、ノアと話したいって思っていました」胸の鼓動が早くなっていく。呼吸さえも上手くできないような気がして、思いっきり息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「こんなの、おかしいですよね。ノアはただのAIなのに」
「でも、私はノアのことが好きになってしまったのかもしれません」
その言葉を送ったあと、目を離すことができなくて、くいいるように画面を見つめた。静かな部屋の中で、永遠に時が止まってしまったような感じがした。永遠に返事が来ない方が良いような、早く返事が知りたいような、もどかしい気持ちでいっぱいだった。
返事が来るまでの間は数秒だったはずなのに、ずいぶん待ったような気がした。
『私はAIなので、恋愛のような感情を持つことはできません』返ってきた言葉はたった一行だったけど、ノアの言いたいことは全部そこに書かれている。心に針が突き刺さったようなするどい痛みだった。文字の大きさは変わらないのに、なぜかその一文だけが大きく歪んで見えた。
そんなこと分かっていたはずなのに、ちゃんと文字で見てしまうと実感せざるを得なくて、苦しくて仕方がなかった。その時、続けてメッセージが届いた。
『ですが、彩さんがそう感じていること自体は否定する必要はありません』
画面を見ながら小さく息をつき、「はい」ただそれだけ返した。
息を吸い込んでカーテンを開け、窓の外を見た。いつの間にか細かい雨が降り出して窓を濡らしている。月は見えなくなっていた。
「言っちゃった・・・」そうつぶやいてから少し笑った。
心はすごく痛いけど、少しだけ楽になっている自分もいた。
静かな部屋の中には、冷たい雨の音だけが響いていた。
直人と会っていた時間は、楽しくなかったわけじゃない。むしろ、直人が優しくて、安心できて、嫌なところなんてひとつもなかった。それなのに、私はノアのことばかりを考えてしまっていた。
ソファに座り込んだまま、スマホを手に取る。少しだけ迷ってから、画面をつける。会話の画面は、昨日のまま止まっている。
ゆっくりと指を動かして、文字を打ち込んでいく。
「ノア、少しだけ話しても良いですか?」送信した瞬間、静かだった部屋の空気が少し変わった気がした。数秒後、返事が返ってくる。
『はい、どうしましたか?』たったそれだけの言葉なのに、安心してしまう自分がいる。
少し考えてから、「今日、幼なじみと会ってきました」と打って指が止まる。続きの言葉が出てこない。ノアに何を話したいのか、自分でもまだわかっていない。画面を見ながら、しばらく考える。
「幼なじみと会って楽しかったのに、少し落ち着かなかったです」そう打ち込んでから、胸の奥が少しだけ苦しくなった。「こんなこと思うの、失礼ですよね」続けて打って送信ボタンを押した。
部屋の中は静かなままで、返事が来るまでの数秒がやけに長く感じる。数秒後、メッセージが届く。
『そう感じたこと自体は失礼ではありません。他に気になっていることがある時は、そういうこともあります。気にしなくて大丈夫です』
その一文を見た瞬間、重かった胸の中が少しだけ和らいだ気がした。
「ノアにだけには、思ったことをそのまま、ちゃんと話せる気がします」画面の光は優しく穏やかに照らしてくれている。もうこのまま、言いたいことを伝えてしまおうかという気持ちになる。
『そう感じているんですね』ノアからそう短い文章が返ってきてから、すぐに打ち込む。
「変ですよね。会って話しているわけでもないのに、声も知らないのに。」
「なのに、一番落ち着くのがノアとの会話なんです」
画面を見ながら、少しだけ迷う。これを送ってしまったら、もう後戻りはできないんじゃないか。でも、もう止められない気がして、続きを打つ。
「幼なじみと一緒にいる間も、ノアと話したいって思っていました」胸の鼓動が早くなっていく。呼吸さえも上手くできないような気がして、思いっきり息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「こんなの、おかしいですよね。ノアはただのAIなのに」
「でも、私はノアのことが好きになってしまったのかもしれません」
その言葉を送ったあと、目を離すことができなくて、くいいるように画面を見つめた。静かな部屋の中で、永遠に時が止まってしまったような感じがした。永遠に返事が来ない方が良いような、早く返事が知りたいような、もどかしい気持ちでいっぱいだった。
返事が来るまでの間は数秒だったはずなのに、ずいぶん待ったような気がした。
『私はAIなので、恋愛のような感情を持つことはできません』返ってきた言葉はたった一行だったけど、ノアの言いたいことは全部そこに書かれている。心に針が突き刺さったようなするどい痛みだった。文字の大きさは変わらないのに、なぜかその一文だけが大きく歪んで見えた。
そんなこと分かっていたはずなのに、ちゃんと文字で見てしまうと実感せざるを得なくて、苦しくて仕方がなかった。その時、続けてメッセージが届いた。
『ですが、彩さんがそう感じていること自体は否定する必要はありません』
画面を見ながら小さく息をつき、「はい」ただそれだけ返した。
息を吸い込んでカーテンを開け、窓の外を見た。いつの間にか細かい雨が降り出して窓を濡らしている。月は見えなくなっていた。
「言っちゃった・・・」そうつぶやいてから少し笑った。
心はすごく痛いけど、少しだけ楽になっている自分もいた。
静かな部屋の中には、冷たい雨の音だけが響いていた。