【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~

 社長は歩いて私の前に立った。そしてデスクに両手をつくと、私に顔をぐいっと近付けてくる。

 至近距離に社長の顔が来て驚くけれど、ポーカーフェイスは慣れているので顔には出さない。ただ彼が今からとんでもないことを言い出しそうな予感だけがしている。

「長谷花南乃、俺と結婚しないか?」

 私は社長がなにを言っているのか理解できなくて、首を傾げた。話の内容はわかっているけれど〝なぜ?〟という疑問が頭の中でいっぱいになる。

 これってもしかして冗談とか? 笑った方がいい?

 内心はパニックになっていた。けれど仕事中は常に冷静でいるようにしているおかげでなんとか耐えられた。

 私は意を決して確認してみる。どうか聞き間違いであってほしい。

「社長、今、結婚とおっしゃいましたか?」

「あぁ、そうだ。で、どうする?」

「どうすると言われましても、そのご要望にはお応えしかねます」

 ここでどうしてOKする流れになる?と心の中で反抗する。

「俺、結構いい男だと思うけど、ダメ?」

 おもしろがるようにして顔を覗き込まれた。冗談なの? でも彼は普段この手の冗談は言わない。判断に困る。ここは無難にかわすのが賢い。

「私には荷が重いです」

 わずかに距離を取りながら笑顔でわす。

「そうか? むしろ君以外できそうな人がいなんだが」

「社長は結婚したいんですか?」

「したくないけど、しないといけない」

 もってまわったような言い方をする。結局どういうことなのだろうか。

「俺が非婚主義者なのは知っているよな? 恋愛や結婚に人生の大事な時間を割くくらいなら金儲けをしている方がましだ」

 仕事が好きなのは間違いないだろう。そうでなければあの量をこなせるわけなどない。

 社長は女性社員に人気だが、誰も秘書にはなりたがらないくらいだ。

 私が彼の秘書になったのは、偶然が重なったのもある。

 そのとき立て続けに起きていたトラブルを、たまたま解決したのがきっかけだ。

 私としては、特別なことをしたつもりはなかたのだが当時新卒であまりしごとがなくて、周囲をよく観察していたおかげでタイミングよく対処できたのだ。

 もちろん私の力ではなく、周囲の指導のおかげだ。

 でも社長はそのときの私の行動を評価したようで、そのまま彼の秘書になった。

 それからは……今思い出しても大変な日々だった。こんな思いをするなら、引き受けなければよかったと何度思ったことか。
< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop