【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~
あっという間に社長が出張から帰ってくる日になった。
あの後なんとか彼の希望通りに手配ができてほっとしたのも束の間、今度は大口の契約が決まってまた忙しくなりそうだ。
今日くらいは……早く帰ってゆっくりしたいな。
この疲れが仕事が立て込んでいたことだけが理由じゃない。
今日の午後母からの送金依頼があり、憂鬱な気持ちで過ごしていた。その日の仕事終わりに銀行に行く前、残高確認画面を見て、ため息が漏れた。
「はぁ」
思わず机に突っ伏した。
「これはまぁ、ひどい残高だな」
背後から突然声が聞こえて飛び起き、振り向いた。するとそこには社長が立っていた。
見られた?
残高表示の画面のままだったので、おそらく見られたようだ。恥ずかしくていたたまれない。それでも私は姿勢を正した。
「お見苦しいところを、すみません」
まだ戻ってこないと思って油断していた私が悪い。
「別に休憩時間だからかまわないが、君の金銭事情については気になる」
私の口座残高はプライベートな話だ。できれは話したくないけれど……。
「もちろん拒否する権利はある。だが社員が困窮しているとなると、把握しておく必要があるのはわかるか? 横領なんかのトラブルが出ると困る。特に俺の側近ならなおさら」
「私、そんなことは決してしません」
珍しく大きな声を出した私を見て社長が驚いている。
「すみません」
「もちろん長谷さんのことは信用している。ずっと一緒に過ごしていればある程度の人間性は理解している。それでも把握はしておきたい」
私は社長の言うことももっともだと思い、家族への仕送りをしていることと、奨学金の支払いがあることを伝えた。
決してギャンブルやホストに貢いだなどというわけではなく、きちんとした理由があるのだと説明する。
「ですが、自分のできる範囲での仕送りですし、自分の人生を犠牲にするようなことは絶対にしません」
悪いことはいつか必ずばれる。リスクを冒すほど私はバカじゃない。
「わかった、そういう事情があったのか」
「はい。ご心配をおかけしてすみません」
一応は納得してくれたみたいでホッとした……のもつかの間、社長はまだ心配なようだ。
「ただ、今の生活は綱渡りすぎるだろう。俺の秘書なら仕事に全力投球してほしいから、そういう懸念は拭っておきたい」
「おっしゃっていることはわかります。でも……」
お金の話だすぐには解決できそうにない。一番いいのは母に今の私の状況を理解してもらうことだけれど、母と会うことすら避けたい現状では、説得することは難しい。
正直言って打つ手建てがない。
「仕事ならちゃんとした判断を即座にできる君がそこまで悩むなんて、親族というのは本当に面倒だな」
社長はやや呆れまじりの声で呟いた。それは私に言っているのかそれとも独り言なのか。