【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~

「話を、聞いてるか?」

「え、はい」

 現実逃避ぎみに過去のことを思い出していて、上の空で話を聞いていた。

「だが、鳳凰寺のひとり息子としては非婚は許されない。特に祖母が俺の結婚を熱望している」

 なんとなく断れなかったのだろうなというのがわかる。私だって祖母が残した『お母さんと仲よくしてほしい』という言葉を無視できないでいるから。

「これまでは、なんとかのらりくらりかわしていたが、三十になった頃から会うたびに見合い写真を見せられるようになって、さすがにうんざりしてきた」

 確かに毎回となると、逃げだしたくなる気持ちもわからないでもない。

「だから長谷さんが俺と結婚してくれればそういう問題が全部片付く」

 なぜそこまで飛躍したのか。

 社長は頭の回転が速く、仕事でも時々理解が追いつかないことがある。けれどそれは仕事なので、これまでの経験から補完してやってこられた。

 しかし今回のことは〝どうしてそうなった〟としか思えない。

「私でなくても、社長の奥様になりたい方はたくさんいらっしゃると思います」

 それこそ募集をかければ、長い列ができるに違いない。

「仕事だとわりきってきちんと任務を遂行してくれる相手となると、俺と同じく非婚主義で、俺のことを好きにならない貴重な君しか、俺の妻の役割は果たせない」

 社長を通じて何度か、取引先や知り合いの方からお見合いや交際の申し出が過去にあった。そのたびに断っていたので、交際も結婚も興味がないことを把握していたのだろう。

「仕事として……ですか?」

 結婚と仕事がどうしても結びつかない。

「俺の妻っていう仕事。どうだ? もちろん無償じゃない、普通の夫婦と同じく衣食住は面倒見るし、援助も多少だができる」

 正直この先のことを考えると、ありがたい申し出ではある。衣食住の心配をしなくていいのは本当に助かる。

 それに私も社長と同じで結婚なんて考えていないのに、周囲から声をかけられるのも困りものだ。失礼にならないように断るのは思いのほか骨が折れる。

 社長は秘書に引き立ててくれ、育ててくれた恩義もある。

 頭の中でメリットデメリットが駆け巡る。そもそも損得を考えているという時点で普通の結婚ではない。

 割り切ってしまえば自分のためにも、社長のためにもなるのではないか。
< 11 / 20 >

この作品をシェア

pagetop