【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~
そして三カ月後。
ステンドグラスから差し込む光、チャペルの中はこれ以上ないほど幻想的だった。その光景に目を奪われていると、隣から声をかけられた。
「大丈夫なのか? 動きが硬すぎるぞ」
「え、はい」
私はハッとして、隣に立つ夫となる社長……いや、凌平に返事をした。
この三カ月で彼の名前を呼び、隣に立つのに多少慣れたような気がしていたけれど、今日みたいにみんなの前で妻の役割を果たすとなると緊張する。
長いドレスの裾を蹴り上げるようにしながら、バージンロードを歩く。自分に一生縁のないものだと思っていたから、なんだか現実味がない。
落ち着かず足元がふわふわしている。凌平がしっかり支えてくれているので転ぶ心配はないけれど、慎重に足を運ぶ。
視線を数歩先の神父の待つ祭壇に向ける。静謐な空気に後ろめたい気持ちになる。
今から私は神様の前で嘘をつく。
彼と神父の前に立つ。隣にいる凌平の方をチラッと見ると、まっすぐに神父の背後にある十字架を見つめていた。
これから愛してもいない相手と、結婚の誓いをするとは思えないほど凛々しい。
私もこれくらい堂々とできなければいけないのに、どうしても小さな罪悪感が芽生えてしまう。
でも……自分で決めたことだ。だから嘘の誓いを立てていつか罰せられるとしても、それを受け入れるつもりだ。
「……花南乃?」
ハッとして顔を上げると、神父が困ったように私の方を見ていた。
「花南乃さん、誓いますか?」
白髪の外国人神父に問われ、私は練習通りに「はい、誓います」と慌てて応えた。実際のところは罪悪感を持つ暇すらなかった。
結婚式の最中だった、ぼんやりしている場合ではない。
「それでは、誓いのキスを」
私はリハーサルをした通り、少し屈んで凌平にベールアップしてもらう。それまでベール一枚を通して見ていた風景がクリアになる。
目の前には凌平がこちらを笑顔で見ていた。
相変わらず綺麗な顔だなと感心する。この人が私の法律上の夫だ。それなのにいまだにうっかり見とれてしまう。
こんなに見ていたら、進行の妨げになる。
この後、私の額に彼がキスをする予定だ。私はそっと目を伏せて彼からのキスを待った。
不意に顎に手を添えられて、上を向かされた。凌平はニヤッと私だけにわかるように笑った。それは決して温かい笑みなどではなくなにやらいたずらを思いついたかのような表情だ。