【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~
う、うう……。
ホテルの豪華なスイートルーム。人生で初の経験なのに、疲れすぎた私はソファに座って動けないでいた。
「おつかれさま、水でいいか?」
「すみません、ありがとうございます」
ぐったりして動けない私に、凌平は憐れみを含んだ視線を向けながら、グラスを手渡してくれる。
本来ならば上司である社長にそんなことをさせるべきではないのだが、今日だけは許してほしい。
「敬語、本当に抜けないね。いい加減慣れないと、周囲が変に思うよ。俺そんなに亭主関白なキャラじゃないし」
それはそうだ。どちらかと言えば〝妻溺愛系〟の夫だろう。今日結婚式に参加してくれた人たちもみなそういう感想を抱いたに違いない。
「……努力します」
「仕事なんだから、完璧を目指してもらわないと困るな。かわいい俺の奥様」
甘い声に甘い笑み。彼のようにすぐに演技できるようになる日が来るのだろうか。
「無理言わないでほしい」
私は彼の言葉に反応して、暑くなった頬を冷ますためにとりあえず水を飲む。
「その初心なな新妻の演技もいいけど、いつまでもそれ一辺倒じゃ困るな。すでに結婚して三カ月経っているんだから、そろそろ次の段階の妻を演じないと」
「はい……レベルアップが必要ということですね」
相変わらず敬語になってしまった。彼はそんな私をを見て苦笑した後、なにか思いついたような顔をした。
「ひとりで演技するのが難しそうなら、俺と練習してみる?」
「練習……ですか?」
「そう、何事もトレーニングが大事だろう。俺たちは……そうだな、運命共同体みたいなものだから、君が失敗したら俺も共倒れになる」
確かにふたりで周囲を騙しているのだから、彼の言うことは間違いじゃない。
「だからこれは君のためであり、俺のためでもあるから、遠慮しなくていい」
いい終わると同時に、彼は私の隣に座って、距離を縮めた。