【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~
* * *

 スマートフォンの画面を眺めて、私はため息をついていた。

 表示されているのは銀行の残高の画面。限りなくゼロに近くなってしまった金額にため息が漏れる。

 就職してから三年目。決して給料が低いわけでも、無駄遣いをしているわけでもない。むしろ家と仕事の往復で日々つつましやかに生きている。

 けれどあの人の電話一本で、私の努力などすぐになかったものになってしまう。

 昼休憩を早めに終えた私は、午後に備えて社長室にある自分のデスクで仕事をしていた。

 今は社長も席を外していて、静かな室内で仕事を片付けていく。

 そんな時だった。デスクの上に置いていたスマートフォンに電話がかかってきた。それを見た瞬間気分が落ち込んだので、無視することにした。

 けれど無視をしていると、何度も何度もかかってくる。結局いつものように私が折れて応答するはめになった。

《花南乃~早く出なさいよ。ママだって暇じゃないんだから》

 そう言いながらお酒とたばこで掠れた声で、私を叱責する。

「ごめん、仕事中だったから」

《それでも電話くらいとれるでしょう? まったく、育ててくれた恩も忘れて》

 まだ電話口で文句を言っている。しかし言い争うだけ無駄だと知っている私はもう一度謝ってすませた。

「どうしたの? なにかあったの?」

 話の内容はわかっているけれど、とりあえず尋ねてみる。

《少しお金を送ってくれない? 今月ピンチなの》

 想像通りの答えが返ってきた。母が私に連絡をしてくる理由なんてお金が欲しい時以外ない。

「この間、お金持ちの彼氏ができたから、今後はお金いらないって言ってたのに」

《ヤダ、あの男の話はしないで。本当にひどいやつだったんだから》

 あぁ、きっともう別れたのだとすぐにピンときた。

 私の母はいわゆる恋多き女だ。常に男の人がそばにいないと生きていけない。けれどいつもその恋は短期だ。私なんて父親の顔すら知らない。

 私は男性と別れるたびに荒れる母を見て育ち、恋愛というものに嫌悪感を持つようになってしまった。

 だから今まで誰かを好きになたことはないし、ましてや付き合ったとこもない。きっとこれから先も恋愛感情を育むことは難しいと思う。

 恋愛に溺れて自分を保てなくなるくらいなら、いっそひとりで過ごしたほうがましだ。

 男性に振り回され続ける母が子どもなんて育てられるわけなどなく、私はずっと祖母に育てられてきた。

 そんな祖母も私が小学五年生のときに亡くなった。その時に「お母さんと仲よくしてほしい」という願いを託されたが、仲よくする方法がこうやってお金を渡すことでしか成り立たない。

 そんな相手に〝育てた恩〟なんて言われてもどうやって感謝したらいいのかわからない。

 それよりもずっとこの生活が続くのだろうか。奨学金の支払いもある。決して生活は楽ではないのだけれど。
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