原始の湖畔、サファイアの瞳
 先頭のオオカミが、白い塊へと飛びかかる。 牙が肉に食い込む音。激しい泥跳ね。それに紛れ、少年もまた影を蹴って飛び出した。

 石槍を高く掲げ、狙いを定めたその時。

「クェェェェェ!」

 湖畔を切り裂くような、悲痛な叫びが響いた。
 掲げた腕が、空中で凍りつく。

 それは、これまで幾度となく聞いてきた獲物の悲痛な叫びとは違っていた。

 あまりに悲しく、あまりに純粋なその響きに、少年の胸の奥が不意に、鋭い石で抉られたかのように痛んだのだ。

 少年は、目の前の獲物(オオカミ)ではなく、その下で汚れ、引き裂かれようとしている「白」を、ただ見つめていた。

 鳥と目があったような気がすると、思わず手を出し、狼の牙が食らいつく口元に、少年は迷わず素手を突っ込んだ。

  喉の奥から絞り出すような「ウゥー」という低い唸りが、獣のそれと重なり合う。

 後の二匹に身体を刻まれ、足に牙が突き刺さる。 だが少年は構わず、その「白」を腕の中に奪い取ると、折れた石槍を狂ったように振り回した。
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