原始の湖畔、サファイアの瞳
 狼たちがその気迫に圧され、闇へと消えていく。
 少年は安心するように、草むらに崩れ落ちた。

 傷口から溢れる血の熱さと、突き刺すような痛みを感じながら、少年は近くの大木まで這い寄り、その太い幹に背中を預けた。

 痛みに意識が遠のき、項垂れていると、頬に『ふわり』と温かいものが触れていた。
 目を開けると、そこには自分を見つめる白鳥がいた。

 彼女は逃げることなく、傷だらけの少年の顔に、その長い首を優しく、慈しむようにすり寄せていたのだ。
 生まれて初めて触れた、命の柔らかさだった。

 少年は地に腰をつけたまま、見たこともない「美しさと温もり」に気圧され、ずるずると後退りした。
 その滑稽な姿に、彼女は首を傾げ、ふっと笑ったような気がした。

 少年はまじまじと彼女を見つめ、無意識に自分の胸に手を当てる。
  刻まれた傷とは違う、奥の方で疼くような、熱くて甘い不思議な痛み。

(なんだろう?)

 ふと、彼女の純白の羽が、先ほどの乱闘で滲んだ血に汚れているのに気づいた。
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