原始の湖畔、サファイアの瞳
 少年は、さっきまで武器を握りしめていた自分の荒れた手が、急にひどく汚いものに思えて戸惑う。
 触れていいのか、汚してしまわないか。

 震える指先で、彼は足元に生えていた薬草をむしり取ると、石で叩き、掌で揉み崩した。
 滲み出た緑の液を、彼女の赤い傷跡にそっと、祈るように押し当てていた。

 飢えれば殺し、奪うのが当たり前だったこの世界で、目の前の「白」がどうしても獲物には見えない。
 手のひらから伝わってくる、彼女の小さく速い鼓動。

 それは、寒さに震えながら一人で眠る夜の、自分の胸の音と同じだった。
 少年には『彼女』はもう、ただの鳥とは思えなくなっていた。

 凍てつく荒野で出会った、たった一人の「仲間」だ。
 少年は、薬草の痛みに身をすくめた彼女を安心させるように、傷のない羽を大きな手で、不器用に、けれどどこまでも優しく撫でていた。
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