御曹司はただの同期のはずだったのに
でも。だからこそ、余計に苦しくなる。

(……やめてよ)

そんな逃げ道、見せないで。

理人とは違う。

優しくて、分かりやすくて、安心できる距離。

それなのに。頭の中に浮かぶのは、別の人。

低い声も、強引な手も、あの視線も。

全部、消えてくれない。

(……私)

どっちを見てるの。

自分でも分からなくなっていた。

会社を出ると、もう辺りはすっかり暗くなっていた。

(……帰ろう)

それだけを考えて、足を進める。

けれど。視線を上げると、いつもの場所にその人がいた。

街灯の下に立つ、見慣れた姿。

一瞬、足が止まる。

理人がこちらに気づいて、軽く手を上げた。

「お疲れ様」

いつも通りの声。何も変わらない顔。

まるで、昼間のことなんて何もなかったみたいに。

そのまま、自然に隣に並ぶ。
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