御曹司はただの同期のはずだったのに
距離も、歩幅も、いつもと同じ。

(……なんで)

どうして、そんなに普通でいられるの。

胸の奥が、じわじわとざわつく。

「……あのさ」

思わず、口を開く。

「今日くらい、お見合い相手の元へ行ったら?」

足は止めないまま、言う。

できるだけ軽く。

でも、言葉の奥に何かが滲む。

「なんで?」

理人はすぐに返した。

本当に分かっていないみたいな声。

「結婚するんでしょ」

はっきりと言う。

その瞬間、空気が少しだけ重くなる。

「しないよ」

あっさりと返された。

迷いも、躊躇もない。

(……え)

思わず足が止まる。

「そういうわけには……」

言いかけて、言葉が詰まる。

理人の立場。

会社の事情。

全部、分かっているはずなのに。

理人は肩をすくめるように言った。
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