御曹司はただの同期のはずだったのに
「適当に相手すれば、相手もわかるだろ」

軽い言い方。

まるで、大した問題じゃないみたいに。

(……なに、それ)

胸の奥が、強くざわつく。

そんな簡単な話じゃない。

あれは、ただの見合いじゃない。

会社も、家も、全部が絡んでいる。

「……理人」

名前を呼ぶ声が、少しだけ震える。

「そんな簡単な話じゃないでしょ」

理人は一瞬だけ黙って、私を見る。

その視線が、まっすぐすぎて逃げられない。

「俺は」

静かに、でもはっきりと。

「玲奈の元へ行く」

その一言に、胸が大きく揺れる。

(……やめて)

そんな言い方。そんな顔。

全部、信じてしまいそうになる。

でも。現実は違う。

昼間に見た光景が、頭から離れない。

あの女性。あの空気。

(……違うでしょ)

私は、そっちの世界の人間じゃない。

「……勝手にすれば」
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