御曹司はただの同期のはずだったのに
やっとそれだけ言って、視線を逸らす。

これ以上、聞きたくなかった。

理人の言葉も。

自分の気持ちも。

歩き出す足が、少しだけ重い。

隣にいるはずなのに。

距離が、さっきまでとは違う気がした。

――同じ場所に向かっているのに。

見ているものが、違っている。

そのズレが、はっきりと形になり始めていた。

その夜の静けさの中で、理人の呼吸が近くにある。

「ああ、玲奈……」

低く落ちる声に、胸が震える。

触れ合うたびに、体温が混ざり合っていく。

理人の瞳には、隠しきれない熱が宿っていた。

「玲奈だけだ」

かすれた声。

「俺がこんなにも求める女は」

その言葉が、まっすぐ胸に刺さる。

温もりが重なって、離れられなくなる。

逃げられない距離。

(……こんなに近いのに)
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