御曹司はただの同期のはずだったのに
賑やかな声に紛れて、最初はいつも通りだった。

仕事の愚痴や、今日の案件の話。

誰かが笑って、誰かがツッコミを入れる。

私は適当に相槌を打ちながら、少しずつ酒を口に運んだ。

気づけば、一人、また一人と席を立っていく。

「悪い、明日早いから先帰るわ」

「俺も終電あるし」

そんな言葉が重なって、気がつけばテーブルには私と理人、あと一人二人だけになっていた。

そして、その残りのメンバーもやがて席を立つ。

「じゃあお先に」

「二人とも、ほどほどになー」

軽く手を振って見送ると、店のざわめきが少し遠くなった気がした。

(……結局、二人だけじゃない)

グラスを持つ手が、わずかに止まる。

理人は何も言わず、注文票を指先でなぞっていた。

「おかわりは?」

視線も上げずに、淡々とした声。

「ああ、大丈夫」

そう答えたものの、頬が少し熱い。
< 11 / 150 >

この作品をシェア

pagetop