御曹司はただの同期のはずだったのに
「無理するなよ」

「してないわよ」

言い返すと、理人はようやく顔を上げた。

その視線が、さっきまでと違う気がして、思わず逸らす。

「酔っても大丈夫だ。安心しろ、俺がいる」

さっきと同じ言葉のはずなのに。

今は、逃げ場がない分だけ、まっすぐ胸に落ちてきた。

「……それはどうも。ご迷惑かけます」

軽く返したつもりなのに、声が少しだけ揺れる。

理人は小さく息を吐いて、グラスに口をつけた。

しばらく、沈黙が落ちる。

なのに、不思議と落ち着く。

「……今回の案件、悪くなかった」

ぽつりと理人が言う。

「負けたけどね」

「僅差だ。次は分からない」

その言い方は相変わらず淡々としているのに、どこかやわらかい。

胸の奥が、少しだけ緩む。

「お前、ちゃんと休めてるのか」

ふいに落ちた言葉に、呼吸が止まった。
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