御曹司はただの同期のはずだったのに
一歩、距離を詰める。

「見合いくらいで、俺を諦めようとするなよ!」

そのまま、強く抱きしめられる。

息が詰まるほどの力。

でも、苦しくない。

むしろ――離れたくない。

理人の腕の中で、完全に捕まる。

「悪い」

耳元で、低く落ちる声。

「もう我慢できないんだ」

その一言で、すべてがほどける。

玄関の床に、ゆっくりと体が沈む。

近すぎる距離。

重なる呼吸。

触れられるたびに、感情が揺れる。

「理人……ずるい……」

やっとの思いで言う。

それでも、止められない。

「ずるくたっていい」

すぐに返ってくる声。

迷いなんてない。

「おまえが側にいれば、それでいい」

その言葉に、最後の理性が崩れた。

(……もう、だめ)

離れられない。離れたくない。
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