御曹司はただの同期のはずだったのに
本当は、そんなわけないのに。

理人の腕が、わずかに強くなる。

でも、それ以上は動かない。

言葉も、続かない。

その沈黙が、何より苦しかった。

それでも私は、笑ったまま。

最後まで、崩さないように。

――これでいい。

そう言い聞かせながら。

その時、ドアがノックされた。

「東條さん、婚約者が来てますよ」

一瞬、空気が止まる。

「……え?」

理人の声が、わずかに揺れた。

次の瞬間、ドアが開く。

小会議室に入ってきたのは――あの女性だった。

整った佇まい。柔らかな微笑み。どこにも隙がない。

「すみません」

少しだけ息を弾ませながら言う。

「どうしても会いたくなってしまって」

悪びれない、自然な言い訳。

その姿が、余計に現実を突きつけてくる。
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