御曹司はただの同期のはずだったのに
ふと、その視線がこちらに向いた。

「あら」

優しく、でもはっきりと気づかれる。

「もしかして、同僚の方?」

その一言で、距離が決まる。

私と理人は、そっと離れた。

さっきまでの温もりが、一瞬で消える。

「……はい」

短く答えるしかなかった。

名前すら、名乗らない。

名乗れない。

「美百合さん」

理人が立ち上がる。

声は、落ち着いている。

「ここではなんですから、社長室へ」

そう言って、自然に距離を取る。

さっきまでとは違う、よそ行きの顔。

「いいえ、いいんです」

美百合さんは、くすっと笑った。

その仕草が、あまりにも自然で。

「ここの方が、理人さんと親しくおしゃべりできますから」

その言葉に、胸が小さく痛む。

“親しく”。

その位置にいるのは、私じゃない。

(……やめて)
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