御曹司はただの同期のはずだったのに
「……いいのよ。人間、踏ん張る時があっても」

いつものように返す。

強く、崩れないように。

けれど。

「おまえのそういうところ、すごいと思うよ」

その一言で、何かが少しだけ崩れた気がした。

(……やめてよ)

そんなふうに言われたら、強がっている意味がなくなるじゃない。

店を出た瞬間、夜の空気がひんやりと頬に触れた。

「……さむ」

小さく呟くと、頭の奥がふわりと揺れる。

(……ちょっと飲みすぎたかも)

足元が、少しだけ不安定だ。

まっすぐ歩いているつもりなのに、感覚がずれている。

隣には理人。

さっきまで店の中で向かいに座っていたのに、外に出るとまた距離が近くなる。

無言のまま、二人で歩く夜道。

街灯の光が途切れ途切れに続いていて、その間をすり抜けるたびに、理人の横顔が明るくなったり、影に沈んだりする。
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