御曹司はただの同期のはずだったのに
「理人」

呼び止める。

振り返る彼に向かって、しっかりと言う。

「待ってる」

その一言に、理人がわずかに笑った。

「任せとけ」

短く答えて、そのまま歩き出す。

――社長室の前。

重い扉の前に立つ。

一度だけ、息を吐く。

そして、理人はその扉をノックをした。

「入れ」

社長室の中から、社長の声が響く。

扉を開けると、すでに空気は整っていた。

ソファには、美百合さんが座っていた。

社長はデスクの前に立ち、こちらを見ていた。

「来たか」

その一言に、すべてが含まれている。

「婚約の日取りを決めるぞ」

当然のように告げられる。

決定事項のように。

けれど。理人は一歩、前に出た。

「その前に」

静かに、しかしはっきりと。

「話があります」

その場の空気が、一瞬で張りつめる。

もう、引き返せない。

理人の覚悟が、そこにあった。
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