御曹司はただの同期のはずだったのに
その背中が、少しも揺れていない。

(……本気なんだ)

全部を賭けて。

私を選んでくれた。

その事実が、胸の奥で強く響く。

逃げられない。

でも、逃げたくない。

理人の隣で、私は初めてそう思った。

「もう婚約も決まっている!」

社長の声が、鋭く室内を打つ。

「この結婚で、何億という取引が生まれるんだ」

理屈は明快だった。

会社としては、これ以上ない選択。

「桐谷」

視線が、私に向けられる。

「申し訳ないが、引いてもらえるか」

丁寧な言葉。

けれど、その裏にあるのは命令に近い重さ。

(……分かってる)

これが現実。理人のいる世界。

本来、私が踏み込んでいい場所じゃない。

それでも――私は一歩、前に出た。

「……いいえ」

声が、思ったよりもはっきり出た。
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