御曹司はただの同期のはずだったのに
廊下に出ると、空気が少しだけ軽く感じた。

さっきまでの圧が、嘘みたいに消えている。

(……終わった)

全部、終わった。

会社も、家も、用意されていた未来も。

理人はもう、何も背負っていない。

その代わりに――私の隣にいる。

それだけが、現実だった。

「……あーあ」

思わず、小さく息を吐く。

「また一からやり直しかな」

冗談みたいに言ってみる。

でも、その言葉の裏にあるものは軽くない。

理人が、少しだけ視線を落とした。

「……ごめん」

ぽつりと、こぼれる。

その一言に、胸が揺れる。

「謝るな」

すぐに言い返す。迷いなく。

「俺が望んだことだから」

理人が顔を上げる。

その目には、迷いはなかった。

「いいの……?」

思わず、確かめてしまう。

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