御曹司はただの同期のはずだったのに
「あ、うん……」

気づけば、頷いていた。

再び並んで歩き出す。

さっきよりも、ほんの少しだけ距離が近い。

触れてはいないのに、意識だけが触れ合っているような感覚。

夜の静けさの中で、足音だけが響く。

――ただの同期。

そう思い込もうとするたびに、さっきの温もりが、邪魔をする。

胸の奥が、落ち着かないまま。

私はもう一度だけ、隣の横顔をそっと盗み見た。

マンションの前に着くと、足を止めた。

「ほら、着いたぞ」

理人が短く言う。

「……ありがとう」

振り返ってそう返すと、急に現実に引き戻された気がした。

ここで終わり。

いつも通り、ただの同期に戻る。

そう思って、一歩下がろうとした、その時。

「――待て」

低い声に、足が止まる。

視線を上げると、理人がまっすぐこちらを見ていた。
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