御曹司はただの同期のはずだったのに
さっきまでと同じはずなのに、どこか違う。

そのまま、理人がゆっくりと手を伸ばしてくる。

「東條?」

何をされるのか分からなくて、名前を呼ぶ。

けれど、触れられたのは頬じゃなくて――髪だった。

指先が、耳のあたりの髪をすくうように軽く触れる。

「……乱れてる」

それだけ言って、ほんの一瞬だけ整えるように指が動いた。

(……なに、それ)

ただ髪に触れられただけなのに、さっきよりも強く、心臓が跳ねる。

離れていくはずの距離が、なぜか縮まっていく。

言葉が出ないまま、見つめ合う。

逃げなきゃいけないのに、動けない。

その沈黙を破ったのは、理人だった。

「このまま帰す気ないんだけど」

低く、抑えた声。

冗談じゃないと、一瞬で分かる。

「……何言ってるの」

やっとの思いで絞り出した言葉は、思ったよりも弱かった。
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