御曹司はただの同期のはずだったのに
腕の力が、ほんの少しだけ強くなる。

でも、苦しくはない。

むしろ――離れたくないと思ってしまう。

理人の手が、そっと私の腕をなぞる。

確かめるように。逃がさないように。

「こんなの、間違ってる……」

やっとの思いで絞り出した言葉は、かすれていた。

分かっている。

この先に進めば、もう戻れない。

ただの同期には、戻れない。

それでも。

「じゃあ、なんで離れない」

すぐに返ってきた言葉に、息が止まる。

答えられない。

分かっているのに、言えない。

離れなきゃいけないのに、体が動かない。

理人が、ゆっくりと私の体を自分の方へ向ける。

視線が、正面からぶつかる。

次の瞬間、唇にやわらかな感触が触れる。

一瞬だけの、触れるだけのキス。

けれど、それだけで全部が崩れた。

思考も、理性も、何もかも。

触れたまま、わずかに呼吸が重なる。

近すぎる距離に、逃げられない。
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