御曹司はただの同期のはずだったのに
別の同僚が楽しそうに言う。

その言葉に、胸の奥がきゅっと締まる。

――ライバル。

そう、私と理人は、ただのライバル。

仕事で競い合う、同期同士。

それだけの関係。

(……そうよ)

それでいいはずなのに。

昨日の夜が、頭から離れない。

触れられた感触も、呼ばれた名前も、全部がまだ残っているみたいで。

「桐谷?」

もう一度、呼ばれる。

顔を上げると、理人がわずかに眉をひそめていた。

「大丈夫か」

それは、誰にも気づかれないくらい小さな声だった。

一瞬だけ、昨夜の理人が重なる。

「……大丈夫」

すぐに視線を逸らして、そう答えた。

これ以上、何も見せたくない。

見せたら、全部崩れる気がした。

キーボードに手を置く。

画面を見つめる。

いつも通り、仕事をする。

――ただの同期。
――ただのライバル。

そう思い込もうとするほど、胸の奥がざわついて、落ち着かなかった。
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