御曹司はただの同期のはずだったのに
嘘じゃない。でも、それが全部でもない。

理人は何も言わず、じっとこちらを見ている。

その視線が、逃げ場を奪う。

「それに?」

問いかける声が低く落ちる。

私は一度だけ息を吸って、言葉を続けた。

「いつまでも私たちが同じ企画ばかりで争うって、会社的にも損じゃない?」

できるだけ、冷静に。

仕事の話として、切り離すように。

沈黙が落ちる。

理人は、わずかに目を細めた。

「……俺の為か」

その一言に、胸が跳ねる。

「ううん」

すぐに首を振る。

「あなたには敵わないって、分かったのよ」

口にした瞬間、ほんの少しだけ胸が痛んだ。

本音じゃない。でも、完全な嘘でもない。

理人の視線が、わずかに揺れる。

何かを言いかけて、飲み込むような表情。
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