御曹司はただの同期のはずだったのに
その沈黙が、怖くなった。

「じゃあ、私はこれで」

その場を離れようと、体の向きを変える。

逃げるように。

けれど。

「待て」

腕を掴まれた。

「……っ」

振り返ると、理人がすぐ近くに立っている。

逃げ場がない。

「俺の事、避けてる?」

低く、確かめるような声。

核心を突かれて、息が詰まる。

(……なんで分かるのよ)

そんなの、認められるわけない。

「仕事だから」

短く、切り捨てるように言う。

それ以上、何も言わせないように。

理人はしばらく何も言わなかった。

ただ、じっとこちらを見ている。

その視線が、痛いほど刺さる。

やがて、ゆっくりと手が離された。

「……そうかよ」

小さく落とされた声。

いつもの余裕は、なかった。

私はそれを見ないふりをして、歩き出す。

背中に、まだ視線を感じる。

振り返らない。

振り返ったら、全部崩れる気がした。
< 36 / 150 >

この作品をシェア

pagetop