御曹司はただの同期のはずだったのに
そう続けようとした言葉を、理人が遮る。

「お互いの気持ちが重要だろ」

鏡越しに、視線が合う。

まっすぐで、揺るがない目。

「それで十分じゃないのか」

その言葉に、何も言い返せなくなる。

間違ってはいない。

確かに、気持ちはある。

でも――

(それだけで、いいの?)

胸の奥に残る、小さな引っかかり。

理人はネクタイを整え終えると、いつも通りの顔に戻っていた。

仕事に向かう男の顔。

さっきまでの距離感が、嘘みたいに消えている。

私はベッドの上で、その背中を見つめる。

手を伸ばせば届くのに。

どこか遠い。

――ただの同期じゃない。

でも、恋人とも言えない。

その曖昧さが、静かに胸に残っていた。
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