御曹司はただの同期のはずだったのに
(……え)

息を呑む。

“決まった人”。

それって――

「彼女じゃないんでしょ」

女性社員が食い下がる。

その言葉に、時間が止まったみたいだった。

理人は、一瞬だけ言葉を詰まらせる。

「あ、ああ……」

曖昧な返事。

はっきりと否定もしない。

肯定もしない。

その中途半端な答えが、胸に突き刺さる。

(……なんで)

頭の中が真っ白になる。

(なんで、はっきり言わないの?)

昨日まで、あんなふうに触れてきて。

あんな言葉をくれて。

それなのに。

(やっぱり私、彼女じゃないの?)

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

さっきまで温かかったものが、一気に冷えていく。

息が、うまくできない。

壁に背を預けたまま、動けなくなる。

(……いやだ)
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