御曹司はただの同期のはずだったのに
「……無理するな」

そう言って理人は起き上がると、すぐに私を引き寄せた。

気づけば、彼の腕の中で向き合っていた。

強引じゃない。でも、逃げ場はない。

そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。

「玲奈」

名前を呼ばれて、目を閉じる。

「逃げるなよ」

低く落とされた言葉。

試すような、確かめるような声。

「……逃げない」

自然と、そう答えていた。

もう、逃げられない。

逃げたくない。

理人は、少しだけ安堵したように息を吐いて、私の肩に顔を埋める。

その重みが、妙に愛おしく感じる。

「理人……」

そっと呼びかける。

「……来て」

その言葉に、理人の腕がわずかに強くなる。

「そのつもりだよ」

耳元で囁かれる声。
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