御曹司はただの同期のはずだったのに
(……すごい)

素直に、そう思う。

同時に、少しだけ視線が気になる。

理人の方を、もう一度見る。

変わらない。何も言わない。

ただ、静かにその場にいる。

けれど。その沈黙が、やけに重い。

公太が席に戻りながら、私の方を見る。

「桐谷さん、やりましたよ」

嬉しそうに笑う。

「……うん、すごいじゃん」

そう返しながらも、意識は別の方に向いていた。

理人は、もう立ち上がっていた。

何も言わず、部屋を出ていく。

その背中が、いつもよりわずかに速い気がした。

(……あれ)

違和感が、残る。

ただの敗北。それだけのはずなのに。

胸の奥が、ざわついた。

――理人の中で、何かが動いた気がした。

(……気に入らない)

表情には出さないまま。

理人の中で、確かにその感情が芽を出していた。
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