御曹司はただの同期のはずだったのに
「そうね。資料もまとめたいし」

「じゃあ乗れ。一緒に帰ろう。タクシー代は俺が出すから」

「……別に割り勘でいいのに」

「いいから」

有無を言わせない言い方。

けれど不思議と嫌な感じはしない。

私は軽くため息をついて、先にタクシーへ乗り込んだ。

隣に理人が座る。

ドアが閉まり、車がゆっくりと走り出した。

車内は静かだった。

運転手のラジオの音がかすかに流れているだけで、会話はない。

それなのに、気まずさはなかった。

むしろ――

(……なんで、こんなに楽なの)

窓の外を流れる街の灯りをぼんやりと眺めながら、そんなことを思う。

普段は、誰かといると少し気を張る。

仕事のこと、言葉遣い、距離感。

でも。隣にいるのが理人だと、それが全部、どうでもよくなる気がした。

「疲れてるな」
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