御曹司はただの同期のはずだったのに
ふいに落ちてきた声に、肩がびくりと揺れる。

「……そんなことないわよ」

いつものように否定する。

けれど声に力が入らない。

「顔に出てる」

短く言われて、言い返す気力もなくなる。

――もう、いいか。

そう思った瞬間、ふっと力が抜けた。

シートにもたれかかり、目を閉じる。

(少しだけ……)

ほんの一瞬、休むつもりだった。

そのまま、意識がゆっくりと沈んでいく。

気づけば、私は完全に眠っていた。

どれくらい時間が経ったのか分からない。

けれど、体がどこか安定している感覚があった。

揺れない。落ちない。

……あたたかい。

「……無理してないって顔じゃないだろ」

そのまま理人に肩を軽く抱き寄せられた。

触れすぎないように。

でも、離さないように。

車の中には、静かな夜が流れていた。
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