御曹司はただの同期のはずだったのに
(……何それ)

突き放されたみたいで。

でも、振り返れない。

私はそのまま、背を向けて歩き出す。

足音だけが、夜に響く。

理人は追いかけてこなかった。

それが、余計に苦しい。

(……なんで)

自分で選んだはずなのに。

一人で帰るだけなのに。

胸の奥が、こんなに重いなんて。

歩きながら、無意識に手を握りしめる。

さっきまで掴まれていた場所が、まだ熱を持っている気がした。

――逃げたのは、私。

なのに。

どうしてこんなに、離れたくないと思ってしまうの。

マンションの前まで来ても、理人は何も言わなかった。

ただ、一定の距離を保ったまま、後ろを歩いてくる。

(……なんでついてくるのよ)

振り返らずに、そのままエレベーターに乗る。

理人も当然のように乗り込んできた。
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