御曹司はただの同期のはずだったのに

④ 終わらせるはずの夜

午後のオフィスに、わずかな緊張が走った。

「理人」

社長の低い声が、フロアに響く。

その一言だけで、空気が変わる。

「……はい」

理人が席を立つ。

いつも通りの落ち着いた返事。

けれど、その視線の先にあるのは、ただの呼び出しじゃないと誰もが感じていた。

「社長室に来い」

短く告げられる。

そのまま、社長は踵を返した。

理人も何も言わず、その後を追う。

その背中を見送った瞬間――

ざわっ、と周囲が動いた。

「……何だろうな」

「今の呼び方、ちょっと違くない?」

「もしかして……」

ひそひそと声が広がる。

そして、誰かが言った。

「見合いの件じゃない?」

その一言で、空気が一気に色を変えた。

「え、ついに?」

「東條だもんな……来てもおかしくないか」

「相手、どこの取引先だろ」
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