御曹司はただの同期のはずだったのに
笑い混じりの声。

でも、どこか本気の興味。

(……見合い)

その言葉が、胸の奥に落ちる。

(やっぱり、来るよね)

分かっていたはずなのに。

頭の中が、少しだけ真っ白になる。

その時。

「桐谷さん」

総務の女性に声をかけられた。

「ちょっとお願いできる?今、手が離せなくて」

「え?」

「社長室に、お茶出してほしいの」

本来なら秘書の仕事。

でも、タイミングが悪かったらしい。

「……分かりました」

断る理由なんてない。

トレーにカップを乗せる。

手元に意識を集中する。

(大丈夫)

ただのお茶出し。

それだけ。

そう自分に言い聞かせて、社長室の前に立つ。

ノックをして、扉を開ける。

「失礼します」

中に入った瞬間、空気の重さに気づく。

理人と、社長。
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